ポリエステルやアクリルの服を洗濯すると、海洋生態系に悪影響を及ぼす?

polyester laundry
(Photo by Thomas Hawk)

リサイクル・ポリエステル製の服は、環境にやさしいエコファッションの代表格。

ところが、ポリエステルやアクリルなど化学繊維の服を洗濯すると、微小な繊維が抜け落ちて廃水として海に流出し、魚貝類など海洋生物の体内に蓄積して健康に害を及ぼす可能性があることを、環境学者らが発表しました。

この研究を行ったのは、アイルランドのダブリン大学をはじめ、オーストラリアやカナダなど世界各国の大学の科学者たち。

海洋生物の体内に蓄積している1mm以下の小さなプラスチック破片(マイクロプラスチック)の出所をつかむため、世界各地の海岸線の砂を調査したところ、含まれていたプラスチック繊維片の80%が服やインテリア製品の素材として使用されるポリエステルとアクリルであることが判明。
洗濯廃水が原因と仮定し、洗濯機で服や毛布を洗濯した際に抜け落ちる繊維が廃水中にどれだけ含まれるかを実験したところ、一枚の服を一回洗濯すると1900以上の目に見えないほどの微小な繊維が抜け落ちていることが分かったのです。

洗濯廃水の繊維が海洋生物内のプラスチック破片となる経緯を調査したわけではないので、このふたつの因果関係は断定できませんが、人口が多い地域ほどマイクロプラスチックの蓄積量が多いという結果が出ているため、洗濯廃水とプラスチック破片の関連性は高いと考えられます。

調査を行ったダブリン大学のブラウン教授によると、小さなプラスチック破片はDDTなど海中の有毒物質を吸収する可能性があり、それら汚染物質が生物の体内に入れば大きな健康被害が生じるとのこと。
教授らがムール貝を使って実験したところ、与えたプラスチック繊維片は体外に排出されず、血液や細胞内部に蓄積されていたそうです。

海中のプラスチックに関して、ビニールのレジ袋やペットボトルなどによる海洋生物への影響は大きく報じられてきましたが、マイクロプラスチックに関してはこれまであまり詳しく調査されてきませんでした。
ところが、海中に蓄積しているプラスチックの65%以上が1mm以下のマイクロプラスチックということもあり、この研究発表を受けて、環境団体やサステナビリティに関心のある企業が動き出すようになるかもしれません。

マイクロプラスチックによって海洋生物の健康が脅かされれば、魚介類を食べている私たち人間の健康にも影響を及ぼします。

世の中はすべて繋がっています。
無意識に行っている日々の選択が、自分や自分の子孫の健康に影響を及ぼす可能性があるのです。

考えられる対応策

この状況を打開するためには、いくつかの方法があります。
服を生産する企業は、化学繊維が抜け落ちない技術を開発すること。
洗濯機を生産する企業は、抜け落ちた繊維が廃水となって流れ出ない工夫を施すこと。
家庭廃水を処理する企業・自治体は、繊維が海に流れ出ないよう処理すること。

そして、私たち消費者は、できる限りコットンやウールなど天然繊維の服を選ぶようにすること。
もちろん、天然繊維であればいくらでも購入してもよいというわけではありません。
コットンは栽培時に大量の農薬や水を使用しますし、ウールを提供する羊のゲップには温室効果ガスであるメタンが含まれているなど、天然繊維であってもさまざまな問題があります(詳しくはこちら)。

世の中には、100%完璧なものなどありません。
大切なのは、私たちがバランスよく、賢く消費すること。
必要でないものを買わず、物を購入する際には作られた過程や素材、その背後にある問題について考え、特定の物ばかりでなくさまざまな種類の物を選ぶこと。
ひとりひとりの力は小さくても、多くの人がこうした消費行動を行えば、より良い社会を生み出すことができるのではないでしょうか。

Environmental Science and Technology
ウエブサイト:http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es201811s

2011/10/27

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