死んだ後も環境保護活動?
海に沈む人工サンゴのお墓、エターナルリーフス

eternal reef
(Photos courtesy of Eternal Reefs)

生きている間だけでなく、死んだ後も誰かの役に立ちたい。

こんな思いを抱く人が急増中。

これを叶えてくれるのが、エターナルリーフス社が提供する人工サンゴのお墓「メモリアル・リーフ」。

サンゴ礁は、海の熱帯雨林といわれるほど、海洋生物にとっても人類にとっても不可欠な存在。
ところが近年、乱獲や埋め立て、生活・産業排水による富栄養化や有害物質による汚染、レジャー活動による破壊、気候変動などにより、世界中でサンゴ礁の死滅が報告され、今世紀中に絶滅する可能性すら示唆されています。

こうした状況に適応すべく、消え行くサンゴ礁の代わりに海洋生物に棲み家を提供してくれる人工サンゴが、注目を集めています。

環境にやさしいコンクリートで作られているこの人工サンゴ、すでに世界59カ国の海に70万個以上も沈められています。

これを、お墓として活用しようという試みが始まっているのです。

エターナルリーフス社が開発したメモリアル・リーフは、なんと、火葬した遺灰をコンクリートに混ぜて人工サンゴ兼お墓をつくり、これを海の底に沈めてしまうというもの。

亡くなった後も環境保護に貢献できるとして、人工サンゴ墓を希望する人が増えているのです。

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生物は皆、死後に自然に還るもの。

ところが人類は、多くの場合、棺や壺に納骨し、自然に還らない形で家族を弔います。

愛する人にずっとそばにいて欲しいという思いや、先祖を大切に思う気持ちはとても大切ですが、人間も地球の生態系のひとつ。
すべての資源を循環させる持続可能な社会を目指すからには、人間自身もその環のなかに組み込むべきでしょう。

遺族への思いやり

多くの人がメモリアル・リーフを選ぶのは、環境保護のためだけでなく、遺族に対する思いやりでもあるのです。

遺族や子孫に永続的に管理を任せざるを得ない納骨と異なり、メモリアル・リーフを管理するのは、魚や海草など海洋生物たち。
維持費もかからず、遺される家族の手を煩わせることもありません。

また、「お墓」の場所を特定できない散骨と異なり、メモリアル・リーフはGPSで場所が管理されているうえ、自然の潮流はもちろんのこと、大きなハリケーンの時にも動かなかったことが証明されているほど頑丈。
遺族は、愛する人が眠っている場所を好きなときに訪れることができ、そのうえ、釣りやダイビングを楽しみながら、お墓参りができてしまうのです。

人の死を環境ビジネスにするなんて、なんだか怪しそうな気がしますが、エターナルリーフの前身は、環境NGOのリーフボール財団。

世界中の海洋生態系を再生するため、人工サンゴ「リーフボール」の開発と設置、サンゴの人工繁殖、生態系が破壊された河口の再生、マングローブの植林、減少する牡蠣礁の再生、ビーチの侵食管理など、政府や企業、学校、研究団体と協力してさまざまな活動を行っている、かなり本格派の環境団体です。

リーフボール財団が人工サンゴのお墓ビジネスを始めたのは、創業者ドン・ブロウリーさんの義父カールトン・グレン・パルマーさんの遺言がきっかけ。

パルマーさんは、義理の息子が行っている活動に賛同し、遺灰を人工サンゴのコンクリートに混ぜてほしいと遺言を残したのです。

その数年後の1998年、亡くなったパルマーさんの希望どおり、ドンさんは人工サンゴのお墓「メモリアルリーフ」をつくり、海に沈めます。

これを機に、義父と同じ思いを抱く人がいるかもしれないと、ドンさんはエターナルリーフス社を創業。

もし、火葬する人の2%が人工サンゴ墓に移行すれば、現在寄付に頼っている環境保護活動としての人工サンゴの製造・設置を、政府の支援なしに行うことができるかもしれないと、ドンさんは期待しています。

少し不便だけど、それだけの価値がある

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メモリアルリーフの価格は、大きさにより、3千~7千ドル。
配偶者やペットと一緒に、メモリアルリーフにおさまることも可能です。

「葬儀」は、メモリアルリーフの製造、対面、設置、お別れの式、と、4回、4日間にわたります。

遺族や友人は、4つのイベントすべてに参加可能。
製造時には、遺骨がメモリアルリーフになる様子を見ることができるほか、遺族のメッセージや手形を残すこともできます。
設置前夜には、メモリアルリーフを通して愛する人と最後の対面をし、「遺骨」でもあるメモリアルリーフを抱きしめたり、写真を撮ったり、自由なスタイルでお別れができます。
海に沈める際には、遺族用のボートで近くから見学し、その後、沈めた場所の海上に移動し、花を捧げます。
一連の「葬儀」イベントは、他の遺族との合同になりますが、希望すれば一家族のみのプライベート利用も可能です。

ただし、「埋葬」の場所は選べません。

なぜなら、この「葬儀」はあくまで環境保護プロジェクトの一環として、人工サンゴを海に沈める活動であり、政府や自治体の許可が必要だから。

2013~14年に予定されている埋葬場所は、フロリダ、テキサス、ノースカロライナ、ニュージャージーの各所。
日本人でも、この場所に遺灰を持ってくれば、サービスを利用できるそう。

もちろん、一般的な葬儀と同様、葬儀証明書も発行してくれますし、提携している葬儀社を通して同社の人工サンゴ墓を選ぶことも可能です。
これまでに、米軍の正式な葬儀として、サンゴ葬が行われたこともあるのだそう。

自分の葬儀が環境保護活動になるなんて、なんだかちょっと魅力的。
自らの体をもって、次世代の役に立つサンゴ葬。
こういう選択をする人が増えているということは、持続可能な社会の実現まであと一歩なのかもしれません。

Eternal Reefs
ウエブサイト:http://www.eternalreefs.com/

2013/07/07

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