サステナブルな魚介類

Sustainable Seafood
(Photo by laszlo-photo)

日本食には欠かせない魚。
ところが、世界中で魚にまつわるさまざまな問題が起こっています。

水生生物や鳥類の生育場所として重要なサンゴ礁や湿地帯の破壊、魚の個体数減少や生殖異常、病気の蔓延、水銀など化学物質の体内蓄積、そしてそれを食す私たち人類の健康被害。

こうした問題が起こっている原因は、実は私たち人類の行動にあります。

魚介類の過剰消費、乱獲や違法漁業、産業・家庭廃水による化学物質の海洋流出など、さまざまな人的要因により海洋環境が汚染され、私たち自身がその代償を払っているのです。

消費増加

1950年代以降、世界中で魚の生産量が激増しています。
国連食糧農業機関(FAO)によると、世界の魚介類生産量は、1950年当時の2,000万トン程度から2009年には1億4,510万トンと7倍以上に増加(FAO)。

漁獲量増加の主な理由は、漁業の効率化が進んだこと。
大型漁船や高速船、魚群探知機などを利用することで、一度に大量の魚を捕獲できるようになりました。
しかし一方で、大量捕獲により近海に生息する魚の個体数が激減し、漁業が成り立たなくなってしまいました。
そのため、遠海への漁域拡大や、人気の高い魚から類似魚への移行、大型魚から小型魚への移行、輸入の増加などによって不足分を補うようになりました。
しかし、乱獲は止まらず、類似種や小型種を含めた魚の個体数減少が世界的問題に発展し、現在野生魚の漁獲量は頭打ちになっています。
この状況が続けば、野生魚の供給不足が一層深刻化するだけでなく、海洋生態系が回復不能になると案じられています。
また、近海の魚介類を主な栄養源としている途上国では、食糧危機の可能性も懸念されています。

乱獲・違法漁業

乱獲や違法漁業の横行による被害も深刻です。

適切な管理がされていないトロール網漁は、海底の生態系を破壊し、不要な魚介類を混獲して魚の個体数減少を助長します。
ダイナマイト漁や毒物漁により、サンゴや魚介類が死滅し、海洋環境が危機に晒されます。
その他、禁漁区や禁漁期、稚魚の密漁など、違法・無報告・無規制の漁業(IUU; Illegal, Unregulated, and Unreported)による被害額は、年100-235億ドルに上るとされています(FAO)。

海洋環境問題は、世界全体で取り組まなければ解決できません。
そのため、FAOは1995年に「責任ある漁業のための行動規範」を制定し、サステナブルな漁業を行うよう、会員国に自主規制を促しています。
これに基づき、EUやアメリカ、世界8位の漁獲量を誇るチリなど多くの国が、違法漁業に対する行動計画を策定しています。

MSC
(Image Courtegy of Marine Stewardship Counsil)

サステナブルな方法で漁獲された魚介類であることを証明する認証システムもあります。
MSC認証(海洋管理協議会, Marine Stewardship Council)は世界的に普及している知名度の高い認証システムで、多くの小売企業やメーカーがMSC認証済の水産物を取り扱っています。
日本では「海のエコラベル」と呼ばれ、浸透し始めています。

日本は、EUやアメリカに次いで魚介類を多く輸入している国(FAO)。
元々魚を好んで食す文化があるにも関わらず、領海で獲れる量が減っているため、輸入に頼らざるを得ないという事情もありますが、消費者は違法漁業による魚介類を購入しないよう注意を払い、過剰消費を抑えて限られた水産資源を世界全体で共有するよう心掛けるべきでしょう。

養殖

野生魚の減少に伴い、養殖業が激増しています。

2001年から09年までの野生魚の漁獲量が9,000万トン前後で横ばいか減少傾向であるのに対し、養殖による漁獲量は01年3,460万トンから09年5,570万と大幅に増加。
既に養殖魚は漁獲量全体の約半分を占めるほどになっています。

養殖とは、本来海の中で育つべき魚介類を囲い込み人工的に育てること。
肉における畜産業や養鶏業と同様に、人工的な食用生物の飼育にはさまざまな問題が伴います。

ひとつは、化学物質の投与。
閉鎖された環境で時に過密状態で育てられるため、魚介類が病気にかかりやすく、抗生物質や殺虫剤など化学物質の投与が必要になります。
また、肉付きを良くするため、自然界ではあり得ない動物性の餌や成長ホルモンが魚介類に投与されることもあります。
こうした物質を摂取した魚介類を継続的に食べ続けることによる人体への影響が懸念されています。

漁場や近海の環境破壊も、深刻な問題です。
養殖業は沿岸部に作られることが多く、水生生物や鳥類の生育に必要なサンゴ礁やマングローブ林が伐採されることがあります。
また、餌や糞が溜まり漁場が汚染されると、養殖魚介が病気になりやすいだけでなく、病原菌や寄生虫が近海に流出し、海洋環境全体に影響を及ぼします。
病原菌だけでなく化学物質の流出による海洋生態系への影響、人工餌の投与による海の富栄養化も懸念されています。

また、サケなど肉食性魚類の餌となる魚粉や魚油の製造のために、大量の野生魚が捕獲されています。
ウナギやマグロなど人工孵化技術が十分確立していない魚類の野生稚魚が捕獲され、養殖されることもあります。
これにより、野生魚の個体数減少が加速しています。

養殖施設の網の目を抜けて海に放たれた養殖魚が近海の野生魚と繁殖すると、在来種の存続が脅かされる可能性があります。
遺伝子操作された魚は食品としての流通生産は認められていませんが、研究用施設から海へ逃げ出した場合の海洋生態系への影響は測り知れません。

こうした問題への対処法として、内陸部の閉鎖された環境での養殖や、貝類やティラピアなど大量の餌を必要としない種の養殖が推奨されています。

しかし、野生魚の不足分を養殖で補うことよりも、過剰消費を抑え、自然界で育った野生魚を世界全体で分け合い、必要な分だけを頂くのが本来あるべき姿ではないでしょうか。

魚の汚染

魚介類は、脂肪分の少ない良性質たんぱく質を多く含む重要な栄養源。
ところが、産業・家庭廃水から海に流れ出た化学物質が魚の体内に蓄積されているため、魚を摂取することで人体に悪影響を及ぼすことがあります。

特に、メチル水銀やポリ塩化ビフェニル(PCB)は人体への影響が大きいため、多くの国や自治体が注意喚起しています。
ほとんどの魚には水銀が微量に含まれていますが、食物連鎖の高位にある大型魚は特に濃度が高く、胎児への有毒性が懸念され、妊婦の自主摂取規制が求められています(厚生労働省)。

水銀やPCB以外にも、内分泌かく乱作用や発がん性の疑いのあるダイオキシン類、カドミウムやヒ素などの有毒物質にも注意が必要です(農林水産省)。

魚の脂肪分に含まれるジフェニル・エーテルは内分泌かく乱物質の疑いが高く、これを多く含む魚油製品を摂取することにより、人の血液中の甲状腺ホルモン濃度に影響を与えるという研究結果も出ています(World Watch, Ocean in Peril)。

産業廃水は、海洋環境にも影響を及ぼします。
窒素やリンの海中濃度が高まると、プランクトンが死滅して微生物の活動が活性化し海中の酸素量が減るため、その海域に住む魚介類の死亡率が高まります。
近年頻発している原油流出による魚介類や鳥類の窒息死も、海洋生態系にとって大きな問題となっています。

私たちが日々使用している服や日用品は、製造過程で分解され難い有害物質が大量に使用されています。
農作物の栽培時に使用される農薬や化学肥料は、地下水や河川を通して海に流れ出ます。
こうした物質が今後も海や魚介類に蓄積され続ければ、いずれ私たちは野生魚を食べることができなくなってしまうかもしれません。

私たち消費者は、自分自身と次世代の人々の健康と食生活を守るため、製品の生産過程に気を配り、有害物質を使用している製品を購入しないよう心掛ける必要があるでしょう。

幸い、海洋環境問題の認知度の高まりに伴い、有害物質の使用を禁止する企業が増えてきています(有名アパレル各社、有害物質排出撤廃を宣言)。
農作物に関しては、オーガニック食品が広く普及しています。

また、多くの環境団体が魚介類を安全に消費する方法や水銀値の高い魚介類のリストを公表しています (天然資源保護協議会サステナブルシーフード, モンテレー湾水族館シーフードウォッチ, ブルーオーシャン・インスティチュート・寿司ガイド)。
こうした情報を活用し、有毒性の高い水産物を避ける工夫も必要でしょう。

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私たち人類は、これまで長い間、環境への影響を考えることなく欲しいものを欲しいだけ生産消費してきました。
その代償が今、私たち自身の健康被害や資源の減少という形で返ってきているのです。
こうした状況が明らかになってきた今、私たちは改めて消費の仕方を見直すべきなのではないでしょうか。

Marine Stewardship Council
ウエブサイト:http://www.msc.org/

The Monterey Bay Aquarium
ウエブサイト: http://www.montereybayaquarium.org/cr/seafoodwatch.aspx

Blue Ocean Institute
ウエブサイト: http://www.blueocean.org/

Natural Resources Defense Council
ウエブサイト: http://www.nrdc.org/

Wold Watch Ocean in Peril
ウエブサイト:http://www.worldwatch.org/node/5352

2012/04/06

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