有名アパレル各社、有害物質排出撤廃を宣言

Dirty Laundry2
(Report from Greenpeace)

ナイキ、アディダス、プーマ、ラコステなど大手アパレル企業が、今年に入ってから次々と有害物質の排出撤廃を宣言しています。

こうした動きが起こったのは、今年7~8月にかけて、環境NPOのグリーンピースが「ダーティ・ランドリー」「ダーティー・ランドリー2」という2つのレポートを発表したからです。

7月に公開された「ダーティ・ランドリー」では、中国の長江と珠江近郊の2つの繊維工場から排出された汚染物質調査を行い、両河川から検出された有害物質の種類、上記2工場が提携しているアパレル企業名、それら企業のサステナビリティに対する姿勢などを発表しました。

同報告書では、こうした環境汚染を食い止めるため、繊維業界全体で”有害物質排出量ゼロ”を目指して取り組まなければならないことを訴えました。
同時に、特に影響力の大きいスポーツアパレルブランドのナイキとアディダスに対して有害物質排出撤廃を呼びかけるキャンペーン「デトックス・チャレンジ」を展開しました。

8月に公開された「ダーティ・ランドリー2」では、大手アパレル15ブランド78製品を調査し、上記2河川から特に多く検出された環境ホルモン物質”ノニルフェノール・エトキシレート(NPE)”の残留量を発表しました。

その結果、15ブランド中、ギャップを除く14ブランド(アバクロンビー&フィッチ、アディダス、カルバン・クライン、コンバース、ジースター、H&M、カッパ、ラコステ、リーニン、ナイキ、プーマ、ラルフローレン、ユニクロ、ヨンゴール)の52製品から1mg/kg以上のNPEが検出されたことが判明しました。

ノニルフェノール・エトキシレートとは、非イオン系界面活性剤のひとつで、自然界には存在せず人工的に作られた物質。
繊維業界では、繊維生産における潤滑油剤、服の染色における均染剤や乳化剤、洗いの際の洗浄剤、加工の際の分散剤、仕上げの際の柔軟剤として、広く使用されています。

この物質が廃水として海や川に流れ出ると、ノニルフェノール(NP)という物質に分解され、水中生物に対して内分泌撹乱作用を起こす可能性があります。
内分泌撹乱とは、ホルモンと同様の働きをしたり、ホルモンの働きを阻害することにより、体内にあるホルモンの動きを乱すこと。
内分泌撹乱物質が水中に流れ出ると、棲息する魚や貝類のホルモンの働きを撹乱し、生殖機能などに異常を引き起こす可能性があります。
ノニルフェノールは、人間の母乳、血液、尿からも検出されています(米環境省のレポート)。

NPE、NPに対する規制は、国によって異なります。
日本では法的規制はなく、事業者の自主規制に任されています。
多くの企業が自主的に代替物質への転換を行っていますが、コストがかかることもあり、未だ全面的な移行には至っていません。
EUでは、生産時の使用は禁止、他国で生産された製品で0.1%以上含むものは販売が禁止されていますが(Official Journal of the European Union)、輸入品に対する調査が徹底されておらず、実際にはこうした製品が市場に出回っています。

NPEが残留する衣服を身につけることによる人体への直接的な影響はないとされていますが、それらを洗濯することで廃水として海や川に流れ、再び水生生物の生態系を侵します。
また、NPEを含む水が適切に浄化されずに水道水に混入すれば、人体に影響を及ぼす可能性があります。

ダーティ・ランドリー2」で発表された結果は、以下の通りです。
(13カ国で生産された15ブランドの服78点を18カ国で購入し、各々のNPE含有量を調査)

ブランド別結果
(基準値以上のNPEが検出された製品数/検査した製品数)

  • アバクロンビー&フィッチ; 3/3
  • アディダス; 4/9
  • カルバン・クライン; 3/4
  • コンバース; 5/6
  • Gスター; 3/5
  • ギャップ; 0/2
  • H&M; 4/6
  • カッパ; 4/5
  • ラコステ; 1/4
  • リーニン; 4/4
  • ナイキ; 5/10
  • プーマ; 7/9
  • ラルフローレン; 3/4
  • ユニクロ; 3/4
  • ヤンガー; 3/3

購入した国別の結果
(基準値以上のNPEが検出された製品数/検査した製品数)

  • アルゼンチン; 4/4
  • オーストラリア; 2/4
  • 中国; 7/10
  • チェコ共和国; 1/4
  • デンマーク; 2/3
  • フィンランド; 1/1
  • ドイツ; 4/7
  • イタリア; 3/4
  • 日本; 3/5
  • オランダ; 3/5
  • ノルウェー; 2/2
  • フィリピン; 2/4
  • ロシア; 4/4
  • スペイン; 3/4
  • スウェーデン; 0/2
  • スイス; 5/6
  • タイ; 4/4
  • イギリス; 2/5

生産国別の結果
(基準値以上のNPEが検出された製品数/検査した製品数)

  • バングラデシュ; 8/11
  • カンボジア; 2/2
  • 中国; 19/28
  • エジプト; 1/1
  • インドネシア; 2/3
  • マレーシア; 2/2
  • パキスタン; 1/1
  • フィリピン; 3/4
  • スリランカ; 1/1
  • タイ; 5/6
  • チュニジア; 0/1
  • トルコ; 5/9
  • ベトナム; 3/6
  • 不明; 3/3

最も多くNPEが検出されたのは、フィリピンで購入したフィリピン製のコンバースの製品、27,000mg/kg。
次いで、日本で購入した中国製のアバクロンビー&フィッチの製品1,100mg/kg、オーストリアで購入したバングラデシュ製のカッパの製品970mg/kg、ロシアで購入した中国製のナイキの服810mg/kgとなっています。

EUのNPE規制値は0.1%(1,000mg/kg)なので、多くの製品は規制内の値ですが、本当に1,000mg/kgが安全といえるのかはわかりません。
日本の環境省の調査では、マウスでは1,231mg/kg、ウサギでは2,140mg/kgが致死量に相当するとしています(環境省・化学物質の環境リスク評価第2巻)。

少なからず危険性があることがわかっているうえ、代替物質があるのですから、それを使用するべきでしょう。

このグリーンピースの一連の試みにより、多くの企業が対策を強いられ、有害物質排出規制を宣言しました。

真っ先に反応したのは、プーマ。
7月に「ダーティ・ランドリー」が公開された直後に、2020年までに同社の製品の全製造工程において危険な物質の排出を撤廃することを発表しました(プーマのサイト)。

次に対応したのは、ナイキ。
最初のレポートが公開された直後、それ以前からさまざまな環境への取り組みを行ってきたが、引き続きサプライチェーン全体で有害物質を排除していくこと、業界全体が変わるよう貢献すること、グリーンピースをはじめとする環境団体と協力しあうことなどを表明しました。
その1ヶ月後には、コンバースやコールハーンなど傘下ブランドを含めたナイキグループ全体で、2020年までに危険な化学物質の排出をゼロにすることを約束。
さらに、2つ目のレポートが出た直後には、同社の禁止物質リスト(RSL)にNPEを含む5つの物質を追加しました(ナイキのサイト)。

そして、最近になってようやく重い腰を上げたのが、アディダス。
8月末に、上記2社と同調する形で、2020年までに危険物質の排出をゼロにすることを約束。
7週間以内に、排出ゼロへの詳細な道筋を発表すると表明しました(アディダスのサイト)。

その他ブランドも、「ダーティ・ランドリー2」が公開された後、以下のように対応しています。

カルバンクラインを傘下に持つPVHは、業界から危険物質の排出を排除する構想に同調すること、4ヶ月以内に同社の対応策を報告することを表明(PVHのサイト)。

H&Mは、同社が1999年から禁止物質リストでNPEを規制しており、09年からは同物質の使用を禁止していること、にも関わらずグリーンピースの調査でNPEが検出されたのは、検査方法などの違いにより含有量をゼロにすることは難しく、同社規定値を100mg/kgとしているからであること、今後も引き続き化学物質管理の改善に努めること、2020年以降に危険な化学物質の全廃を目指していること、などを発表しました(H&Mのサイト)。

ラコステは、2020年までにNPEを全廃、同年までにREACH(欧州の化学物質規制)で規制されている物質に関して順次排出を撤廃する、と限定的な規制を表明しています(ラコステのサイト)。

ジースターは、グリーンピースの基準値は同社基準(100mg/kg)やEU基準と比べて低すぎると批判しつつも、今後危険な有害物質の排出を排除していくこと、現在改良に取り組んでいる環境・健康・安全管理システムの詳細を近い将来発表することを表明。

ユニクロは、詳細な規定値などには言及していないものの、2010年に環境ガイドラインを製作したこと、今後危険な化学物質の削減・排除に努めることを表明しました(ファーストリテイリングのサイト)。

企業により対応はさまざまですが、私たち消費者ができることは、グリーンピースのレポートに対して適切な対応を行った企業を支持し、何の対策も取らなかった企業の商品を買わないようにすることでしょう。

企業は、商品が売れなければ存続できません。
消費者である私たちが、購入する商品の生産過程で使用する物質や製造工程に注意を向け、厳しく対応すれば、より多くの企業が正しい方法で生産・販売するようになるはずです。

個々人の変化は小さくても、いずれ大きな変化に繋がるはず。
まずは行動を起こすことが大切です。

Greenpeace
ウエブサイト:http://www.greenpeace.org

2011/09/02

  • ピックアップ記事