養蜂家と環境団体、環境保護庁を提訴
ミツバチの大量死を招く殺虫剤の規制を要求

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(Photo by the_azure_world from flickr)

アメリカの養蜂家と環境団体が、環境保護庁に対し、ミツバチの大量死を招く可能性があるネオニコチノイド系殺虫剤の使用停止を求める訴訟を起こしました。

植物の受粉をしてくれるミツバチは、生態系にとって欠かせない存在。

ミツバチがいなければ、私たちは、蜂蜜だけでなく、ブルーベリーやアーモンドやトマトも食べられないかもしれないのです。

ところが近年、ミツバチが大量に失踪、あるいは死んでしまう「蜂群崩壊症候群」と呼ばれる現象が、アメリカを中心に世界中で起こっています。

そして、その原因はまだ判明していません。

病原菌説、ストレス説、栄養失調説、遺伝子組み換え種子説、さまざまな説がありますが、最も信憑性が高そうなのが、ネオニコチノイド系の殺虫剤説。

ネオニコチノイドの何が問題?

昆虫の神経を麻痺させる、ネオニコチノイド系の殺虫剤。
農業や庭の害虫駆除剤として、あるいはペットのノミ退治用に、一般に販売されています(ハチはなぜ大量死したのか より)。

農業用の殺虫剤として販売されているこの薬品は、畑に撒くのではなく、種に浸して植物の組織内部に吸収させます。
茎や葉や根などあらゆる組織に現れ、どこをかじっても害虫を退治することができるため、トウモロコシやじゃがいもなどさまざまな野菜に、世界中で使用されています。

ただし、害虫やノミを駆除するには良くても、同じ昆虫であるミツバチのような益虫も影響を受けてしまいます。

製造メーカーは、組織内部に吸収された後の残留量はわずかであり、ミツバチなどの大きな昆虫には影響はないとしていますが、たとえ少量でも長期にわたり継続的に摂取した場合の影響は十分調査されていません。

そのため、この農薬により神経障害に陥ったミツバチが巣に戻れなくなり、蜂群崩壊症候群が起こっているのではないかとする説が、近年有力視されるようになっているのです。

ネオニコチノイドを巡る争い

こうした事情から、欧州では、フランス、ドイツ、イタリアなどがネオニコチノイド系殺虫剤の使用を禁止しています。

一方、アメリカでは、欧州各国で使用が禁止されているイミダクロプリドというネオニコチノイド系殺虫剤の処遇に関する再評価が現在行われ、パブリックコメント期間を経て、結果は2014年に出る予定です(EPA)。
ただし、その間も殺虫剤は使用され続けています。

同じくネオニコチノイド系のクロチアニジンやチアメトキサムという殺虫剤に至っては、まだ正式に認可されていないにも関わらず、生態系への影響調査を行い、その結果を提出することを条件に、テスト販売が許可されています(Center for food safety)。

この条件付きのテスト販売(条件付き登録)という仕組みは、とても危険です。
広く流通してしまった後に危険性が判明しても、影響を受けてしまった土壌や水や生態系を元に戻すことはできないからです。

そこで、2012年、養蜂家団体は環境保護庁に対し、安全性が証明されるまでクロチアニジンなどのネオニコチノイド系殺虫剤の使用を停止するよう求める嘆願書を提出。

ところが環境保護庁は、切迫した危険性を示す明確な証拠がないという理由で訴えを退け、クロチアニジンとチアメトキサムを含むネオニコチノイド系殺虫剤のテスト販売を引き続き容認し、製造会社からの影響調査が出た後、2018年までに最終判断を出すと回答。

これを不服とし、4つの養蜂家と5つの環境団体が先日、環境保護庁に対してこれら殺虫剤の使用停止を求める訴訟を起こしたのです。

明確な危険性を示す証拠がないのと同様に、明確な安全性を示す証拠もないのですから、欧州各国のように予防原則に従って使用を停止すべきでしょう。

環境保護庁は、ネオニコチノイド系殺虫剤のミツバチへの危険性を認識していますし(EPA)、蜂群崩壊症候群の対策チームを作り調査を続けています。
にも関わらず規制できないのは、化学メーカーとの癒着や圧力など、背後にさまざまな事情があるのでしょう。

訴訟を起こすことで、こうした水面下で行われている危険な行為を暴き、法に基づいて裁くことができるのです。

養蜂業を取り巻く、複合的な問題

ただし、この問題は、単に環境保護庁が条件付き登録の仕組みを変えたり、ネオニコチノイド系農薬の使用を停止することで、すべてが解決するわけではありません。

そもそも、養蜂家や環境団体が訴訟を起こしたのは、カリフォルニア州のアーモンド農家を守るためです。

カリフォルニアのアーモンドは、世界の消費の80%を担うほどの大きな産業。
そして、アーモンドの受粉は、ほぼミツバチのみに頼っています。

アーモンドは、他の果物や野菜と異なり、食べるのは実ではなく種。
リンゴや桃のように実を大きくする必要がないため、摘果しません。
つまり、受粉すればするだけ売上が上がるため、大量の花粉媒介者を必要とします。

そのため、アーモンド農家は野生の昆虫だけに受粉を任せず、全米中の商業養蜂家から受粉の時期にミツバチを借り集め、意図的に大量に受粉させています。

そのうえ、カリフォルニアのアーモンド受粉時期は2月と早いため、本来冬の間活動を休止しているはずの全米各地のミツバチに、コーンシロップなどの人工的な餌を与え、春が来たかのように錯覚させて無理矢理活動させています。

つまり、養蜂産業もアーモンド農業も自然の姿とはかけ離れてしまい、持続可能とはとてもいえないのです。

かつて蜂蜜をつくっていた養蜂家が、こうした受粉用蜂貸出業に移行したのは、海外からの安い蜂蜜が出回り、価格競争に勝てなくなったためとされています。
そして、海外産の蜂蜜は、コーンシロップなどで水増ししたニセモノが多いとも言われています。

残っている数少ない蜂蜜用の養蜂業でも、寄生虫除去用の強い殺虫剤を使用するなど、売上確保のために危険な行為が行われています。

蜂群崩壊症候群の原因がひとつに特定できないのは、こうした養蜂産業の仕組み自体の問題もあり、複合的な要因が入り混じっているからではないかとも言われています。

私たちが見失っているもの

自然界は、複雑に絡み合って機能しているもの。
"害虫"も"雑草"も、人間の視点からは悪いものに見えるかもしれませんが、自然界にとっては必要な存在です。

"害虫"を駆除すれば、その虫と捕食関係にある生物が絶滅あるいは異常発生するかもしれませんし、ミツバチのように人間にとっての"益虫"も駆除され、巡り巡って人間にとって悪い影響を与えることになるかもしれません。

蜂群崩壊症候群は、人類が見失ってしまった自然界のルールを教えようとしているのかもしれません。

果物や野菜や蜂蜜をこの先もずっと食べたいと思うのなら、オーガニックでない食品や綿製品や蜂蜜は買わないこと。

それが、農家でも養蜂家でも政府職員でもない私たちができる、ミツバチの絶滅を食い止める唯一の手段なのではないでしょうか。

Center for Food Safety
ウエブサイト:http://www.centerforfoodsafety.org/

2013/03/27

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