エコデザイナーインタビュー:ミカ・オーガニック Vol.5
(Photo by Jason Wyche, courtesy of Mika Organic)
絶滅危惧種の動物や自然界の生物を描いたグラフィックが素敵なミカ・オーガニック。
世界各国のグリーンファッションショップからオーダーが絶えない人気のサステナブルブランドですが、デザイナーのミカ・マチダさんは、実は日本からアメリカ・ニューヨークに移住した日本人。
キュートでほんわかした外見とはうらはらに、エチオピアの部族の村を訪問したり、ペルーのアマゾンを探検するなど、実はワイルドな行動派。
釣りや動物や自然を愛する、ピュアで熱いハートを持つミカさんに、エコデザイナーとしての思いからエチオピアやペルーでの体験まで、様々なお話を伺いました。
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Vo.4から続く
独自の文化を持った部族の村に、観光客が入ることは問題ないのですか。
観光客が部族の村に入ることは許されていますが、彼らの写真を撮ると、1枚につき50セントくらいを支払わなくてはならないシステムがあります。
部族の人たちは物乞いはしませんが、写真を撮った回数を数えていてお金を請求します。
普通に暮らしている彼らの生活を、カメラを持った観光客が邪魔しているわけですから、お金を請求するのは当然だと思います。
でも、彼らは生活に困っているわけではありません。
観光客から得たお金で、塩やビーズなど自分たちで作れないものを買っているようです。
部族内で週に2回ほどマーケットが開催されるのですが、そこで自分たちが作った穀物やハチミツを売買し、商売もしています。
部族の地域内にはタバコ屋のような小さな店があり、そこでカミソリやハサミ、歯磨き粉などを売っていました。
彼らはいつも木の枝をぼさぼさにしたものを噛んでいて、それが歯磨きの代わりになっているようなので、歯磨き粉は使わないと思いますが、その店にはそういったものも置いていました。
部族の村に入る際、それぞれの部族の現地ガイドをつけなければならないという決まりがあります。
私たちのガイドになってくれたのは、現地の高校生でした。
彼は英語が話せるので、部族と私たちの通訳をしてくれました。
ただ、彼は部族の伝統的なヤギ皮の服ではなく、Tシャツとジーンズを着ていました。
彼自身は部族の格好をしたいのですが、学校がそれを禁止しているそうです。
禁止する理由は分かりませんが、若い彼らが先進国の人と同じような格好をし、観光客と英語で話し、先進国の物質的な生活を垣間見ることで、世の中の部族が次々と消えてしまっているのと同様に、もしかしたら彼らの文化もなくなってしまうのではないかと、切なくなりました。
ガイドの彼は、彼らの部族では「愛」の概念が先進国のものとは違うと言っていました。
彼らの部族では一夫多妻制で、歳上の兄弟から順に結婚します。
愛しているから結婚するのではなく、親が決めた結婚をするそうです。
他の部族の様子はどうでしたか。
他の部族は、それぞれの文化を持っていて、ハマー族に似たスタイルの部族もあれば、全く違う格好をしている部族もあります。
ハマー族の隣には、ムルシ族やカマ族という部族があり、ムルシ族はハマー族とは格好が全く異なりますが、カマ族はハマー族と格好が似ていて、部族間の結婚も許されているそうです。でも、ハマー族は魚を食べないけれどカマ族は魚を食べる、というように、それぞれに異なる部分があります。
部族間では争いがあるそうです。
ハマー族とムルシ族は敵対していて、殺しあうこともあるそうです。
彼らはロシア製の銃を所有していて、普段はハイエナを撃つために使っているのですが、部族間闘争にも使われているそうです。
でもあまりに争いが多かったために、最近政府が部族間闘争を禁止し、今は収まっているそうです。
彼らの間では、所有するヤギの数で力関係が決まるそうで、ヤギを盗んだからというような理由で戦いが起こるのだそうです。
それなのに、ヤギの数を正確に数えることはしないそうです。数えなくても、一匹いなくなれば、どのヤギがいなくなったかがわかるそうです。
(Photo courtesy of Mika Organic)
また、背中にたくさんタトゥーがある女性がいるのですが、それは夫が他の部族の人を殺した、あるいは猛獣をしとめたことの証だそうで、それがあることで人からリスペクトされるそうです。
高校生のガイドに、人を殺すことは悪いことではないのか聞いてみたのですが、"良いことではないが、自分の部族を守るために行っていることなので仕方ない"と言っていました。
エチオピアの後、ケニアにも行ったそうですが。
ケニアには、野生動物を見に行きました。
サファリでは、見渡す限りの大自然、そして人間のいない動物だけが存在する地球の姿を見ることができ、感動しました。
ただ、そこでも色々な問題がありました。
サファリの周りにマサイ族の村が点在しているのですが、マサイ族の間では所有する牛の数で力関係が決まるので、干ばつで飲料水が不足しているのに牛を手放さず、むしろ増やそうとするのだそうです。
そのため牛の数が増え続け、草がなくなっているそうです。
サファリが行われる野生動物が住むエリアとマサイ族の村の間にはフェンスがないので飼い牛が自由に行き来できるのですが、村の周辺に草がなくなってきたので、牛たちが草のある場所を探してサファリエリアの奥まで入り込み、その結果、野生動物が住む面積が縮小しているそうです。
彼らにとって牛はお金のようなものなので、牛を増やすなということは自分の財産を増やすなということになります。
たとえ水不足が起こっていても、牛を減らすことは難しいのだと思います。
それにゴミの問題もありました。
サファリエリアを出るとプラスチックなどのゴミがたくさん積まれていました。
観光客が捨てているのかと思ったのですが、実は観光客慣れしたマサイ族が捨てているのだそうです。
サファリで動物たちの自然の世界を見て帰ってきて、人間の社会に入るとゴミがたくさんある。ゴミの出る社会というものを考えさせられました。
また、マサイ族は、彼らの伝統的な衣装である赤いマントを羽織っているのですが、足元はナイキのスニーカーだったり、お土産屋で売られていた赤いマントが中国産のポリエステル製だったりと、彼ら本来の文化が失われているように感じました。
サファリでは、木の上にヒョウが寝ていると、ガイドが無線で連絡しあうので、無人だった場所にどこからともなくたくさんの観光客を乗せたサファリツアーの車が集まってきます。
それを見て、人間は変な生き物だな、と思いました。
人間が世界を旅することによって環境に負荷をかけることもあると思いますが、ミカさんがなさったような旅を皆もするべきだと思いますか。
するべきだと思います。
団体旅行でサファリツアーに来ている人たちは、どういう目的意識を持って来ているのか、そこで何を学んだかはわかりませんが、ただ都会の観光地に行ってお土産を買って帰るよりは全然良いと思います。
私自身は、エチオピアの旅をしたことで人生観を覆されました。
自分の生活を見直すことができたので、そういった経験をすることは大切だと思います。
一番良かったことは、エチオピア行った後に、完全にモノが欲しくなくなったことです。
素敵だなと思うものがあっても、結局ゴミになるから必要ない、と思うようになりました。
そういう感情を抱けるようになったこと、そのきっかけとなったエチオピアでの経験ができたことは、ラッキーだと思います。
サステナブル・ラグジュアリーというような概念がありますが、ラグジュアリーは必要ないと思います。
私自身、以前は"たくさん働いたからご褒美にモノを買おう"と考えることがありましたが、今ではそういう感覚はなくなりました。
だからといって豊かでないのではありません。
ラグジュアリーということの意味を考え直す必要があると思います。
Vo.6に続く
2010/07/04