水に関する諸問題 Vol.1

water
(Photo by limowreck666 from flickr.com)

水が豊富な日本ではピンとこないかもしれませんが、水は世界中で議論されている深刻な環境・社会問題。

人間の体の50-70%は、水でできています。
水がなくては生きられないのに、地球上で人間が利用できる水はごくわずか。

地球上にある水の総量は、14億km3。
そのうち、97.5%は海水なので、利用できません。
残りの2.5%が、飲料水や生活用水として利用できる淡水です。

ところが、淡水のうち70%は氷や万年雪で覆われた氷河や氷冠なので、実質的に利用不可能。
30%弱は地下水ですが、そのほとんどは数百・数千年間堆積する深い層にある水なので、これも利用不可能。
0.3%は湖や川などの表層水なので、一部利用できます。
これに浅い層にある一部の地下水などを合わせると、私たち人間が利用できる水は20万km3、淡水の1%未満しかないのです。
(データ:UN-Water)

その20万km3の水をめぐり、さまざまな問題が世界各地で起こっています。

1. 水不足

アメリカ中西部、オーストラリア、中国、インド、中東など、先進国・途上国問わず、世界中で水不足が深刻化しています。

過度の取水により、河川や湖は干上がり、井戸は涸れ、生活に必要な水が得られなくなっています。
経済的に余裕のある先進国は他地域から水を購入することができますが、余裕のない途上国では、汚れた水を飲まざるを得ず、甚大な健康被害が起こっています。

日本のように水が豊富な地域では、水不足は一部の乾燥地域だけで起こる他人事、という印象があるかもしれません。
ところが、水不足は日本とも大きな関係があるのです。

水不足の主な原因は、農業用の灌漑です。
世界の淡水の使用比率は、農業70%、工業22%、家庭8%(UN-Water)。
家庭で使う飲料水や生活用水はごくわずかに過ぎず、淡水のほとんどは、食品や身の回りの製品を生産するために使われています。

人ひとりが1日に飲む水は2-4リットル、生活用水を足しても100-500リットル程度ですが、1kgの米を栽培するためには1,000-3,000リットル(1-3トン)もの水が必要です。
肉類は、さらに多くの水を必要とします。
1kgの牛肉を得るためには、家畜の飲料水だけでなく、飼料となる穀物を栽培するための水も必要なので、13,000-15,000リットル(13-15トン)もの水が消費されるのです。
さらに、コーヒー1kgを生産するためには20,000リットル(20トン)もの水が使われます。
たとえば、朝食に卵2個分のオムレツとサラダを食べ、牛乳を1杯飲むと、1,500リットルの水を消費していることになります。
(データ:水の未来 世界の川が干上がるとき あるいは人類最大の環境問題UN-Water)

ファッション製品も、生産時に大量の水を必要とします。
衣料品の約40%はコットンから作られていますが、1kgのコットン(Tシャツ1枚とジーンズ1本分)を栽培するのに必要な水は、20,000リットル(グリーンファッション入門)。
そのうえ、綿花から繊維、糸、布にし、染色・加工する過程でも大量の水が消費されます。
特に、ジーンズなど"洗い"を必要とする場合は、さらに多くの水を消費します(デニムと環境の関係)。

日本は、こうした食品や身の回りの製品の多くを輸入で賄っています。
つまり、食品や製品という形で、水を大量に輸入しているということです。
これをバーチャルウォーターといいます。
日本は、バーチャルウォーターを輸入することにより、自国の水を温存し、生産国から水を奪い、水不足の原因を作っているのです。

バーチャルウォーターを輸入しているのは、先進国だけではありません。
中国、メキシコ、エジプトなど、かつては食糧を自給していた途上国や新興国でも、過度な灌漑により水不足に陥り、食糧を輸入に頼らざるを得なくなっています。

さらに、世界的な人口増加と、途上国や新興国の生活水準の向上により、地球全体で水需要が大幅に増えています。
2025年までには、先進国で18%、途上国では50%水需要が増えると予測されています(UN-Water)。
既に世界各地で深刻な水不足が起こっているのに、今後さらに水需要が増えれば、水不足が加速するばかりか、世界的な食糧不足に発展しかねません。
水が不足しているわけではないのにバーチャルウォーターを大量に輸入している日本をはじめとする先進国は、水と食糧のことを改めて考え直さなければなりません。

*****

水は、蒸発して雲になり、雨や雪となって地上に戻り、循環する再生資源。
石油や石炭など量に限りがある化石資源と異なり、使ってもなくなることはないはずです。
それなのに、なぜ水は足りなくなってしまうのでしょうか。

水には、循環が早いものと遅いものがあります。
長い年月をかけて堆積した地中深くの水は、循環が遅い水。
一方、河川などは、表層部が蒸発しては雨となって戻ってくるので、比較的循環の早い水。
循環の早い水でも、雨や雪が補うよりも早いペースで大量に使用すれば、なくなってしまいます。
人類は、こうした循環の早い水を使い尽くし、井戸を深く掘り進めるなどして、循環の遅い化石水に手を付け始めているのです。

また、水は人間が必要とするところに首尾よく集まってくれるわけではありません。
干上がった川に大雨が降ることを願ったところで、自然をコントロールすることはできません。
逆に、洪水の危険性が高い地域に集中豪雨が起こるなど、望んでいない地域に水が集まることもあります。
たとえ地球全体で水が循環・再生していても、人間が欲する場所に水が集まり、望み通りに使えるわけではないのです。

*****

では、水不足解消のためには、どうすればよいのでしょう。

最も効果的なのは、水使用量を減らすこと。
農業では、灌漑の代わりに雨水を利用したり、点滴灌漑などの節水システムを使うこと。
工業では、節水効果の高い機器を使うこと、水使用量の多い工程を排除すること。
家庭では、水効率を考えて生産されている食品や製品を購入すること、節水し、雨水を溜めて使うこと。
もちろん、それだけですべての問題が解決するわけではありませんが、できることを行っていくしかありません。

逆に、水の供給量を増やす方法もあります。
たとえば、海水から塩分を取り除いて淡水化する、大気中にある水分を獲得する、人工的に雨を降らせるなど、新たな科学技術が開発されています。
ただし、こうした設備は高価なうえ、稼動するために燃料が必要になります。
石油や石炭、天然ガスなどのエネルギーは、生産時に大量の水を使用します。
それに、水と同様にエネルギー需要が増加しているため、世界中で供給量確保に窮しています。
そのような状況下で、エネルギーを大量に使用して水を得ることが現実的といえるのか、疑問が残ります。
また、こうした新技術により海水や大気中の水分が減ると、新たな環境問題が起こる可能性もあります。
自然の摂理に反すれば、いずれ大きな代償を払わざるを得ないもの。
人工的に水の供給量を増やすことを考える以前に、地球が供給する水量の範囲内でバランスよく使う方が堅実な方法といえるのではないでしょうか。

 

2. 水の汚染

水の汚染も、深刻な問題です。

世界には、安全な水を得られない人が、6人に1人の割合でいます(データ:UN-Water)。
農業にも工業にも生活用水にも汚染水を使用せざるを得ず、大勢の人が深刻な病気に掛かっています。
地下水を汲み上げる井戸や雨水を貯水する設備、排泄物を水に流さず堆肥化するコンポストトイレなど、少ない投資で実践できる取水・浄化システムがあれば、状況は大きく改善されます。
ただし、近隣地域の農工場が汚染水を垂れ流せば、せっかく掘った井戸も汚染されてしまいます。
多くの場合、こうした工場で作られているものは、先進国の人が使う製品なのです。

上下水道設備が整っている先進国でも、使用した有害物質を適切に処理せずに排水する工場が後を絶たず、下流域や近隣諸国に住む人が深刻な健康被害を被っています。

水は、使えば汚れるもの。
私たち人類は、さまざまな形で水を使い、汚しています。

身近なところでは、トイレや洗濯など日々の生活。
排泄物に含まれるバクテリアや菌類、洗濯や食器洗いで使用した有害物質などが、河川や海を汚染します。
農業で農薬や化学肥料を使用すれば、土壌から有害物質が浸透して地下水や近隣の河川や海を汚染します。
化学物質を使用する工場で、適切な処理をしないまま排水すれば、河川や湖、海などを汚染します。

汚した水をすべて浄化し再利用できれば、健康被害や環境汚染を食い止められます。
そのため、高度な汚染水浄化技術や水リサイクル設備が開発されています。

しかし、処理に伴うエネルギー消費量や費用を考えれば、汚染して浄化する以前に、有害物質の使用を削減・禁止し、原因を根元から絶つ方が効率的でしょう。

私たち消費者ができるのは、有害物質未使用の製品や廃水処理済であることが証明されている製品を選ぶこと、節水効果の高い製品を選ぶこと、途上国の上下水道設備や水質検査を行う団体に寄付すること、などが考えられます。

Vol.2に続く

2012/02/06 訂正 2011/07/02

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