肉を食べると環境を汚染する?
肉食と環境の関係
(Photo by Daniel_Rowe, flickr)
肉や乳製品を食べると環境に大きな負荷がかかるということ、ご存知でしたか。
たとえば、焼き肉やステーキには欠かせない、牛肉。
私たちが牛肉を1kg食べるごとに、車で100km走るのと同じ量の温室効果ガスが排出されます(Environmental Working Group)。
ジンギスカンでおなじみの羊肉は、さらに環境負荷が高く、排出される温室効果ガスは、牛肉の5倍!
豚肉は牛肉の約半分、鶏肉は40%程度、鶏卵は14%程度、牛乳は7.5%程度、そして意外なことに、チーズは豚肉よりも負荷が高く、牛肉の約52%の温室効果ガスが排出されます。
食糧農業機関によると、家畜業が排出する温室効果ガスは、世界の全排出量の18%にも上るのだそう(FAO)。
以下、食品別の温室効果ガス排出量ランキングです(EWG)。
- 羊肉 39.3 kg
- 牛肉 27.1kg
- チーズ 13.5kg
- 豚肉 12.1kg
- 鮭(養殖) 11.9kg
- 七面鳥肉 10.9kg
- 鶏肉 6.9kg
- ツナ缶 6.1kg
- 卵 4.8kg
- じゃがいも 2.9kg
- 米 2.7kg
- ピーナッツバター 2.5kg
- ナッツ 2.3kg
- ヨーグルト 2.2kg
- ブロッコリー 2kg
豆腐 2kg
豆(乾燥) 2kg - 牛乳(2%脂肪分) 1.9kg
- トマト 1.1kg
- レンズ豆 0.9kg
ランキングの中には野菜も入っていますが、肉や乳製品の排出量が圧倒的に多いことがわかります。
肉や乳製品による環境負荷は、温室効果ガスだけではありません。
ハンバーガー用のパテ1枚(110g相当)を作るのに、約200リットルの水、約7㎡の土地、約3kgの穀物や草、94万キロカロリー/時のエネルギーを消費します(NPR)。
いったいなぜ、肉や乳製品はこんなにも環境負荷が高いのでしょうか。
理由その1. 飼料
牛や羊などは、本来草を食べる草食動物です。
ところが、食肉用に飼育される動物には、早く成長させ、脂肪の乗ったおいしい肉や大量の乳を作り出すため、トウモロコシや大豆など栄養価の高い穀物が餌として与えられています。
草はよほど水不足や土壌が悪くない限り自然に生えてきますが、穀物は野菜と同様に人が手をかけて栽培しなければ十分な量を収穫することはできません。
つまり、動物の餌を作るだけのために、野菜を栽培するのと同様の負荷がかかっているのです。
さらに、動物の餌となる穀物には、野菜を栽培するときよりも多くの農薬や化学肥料が使われます。
人が食べる野菜に大量の農薬や肥料を使えば人体に直接影響が及びますが、動物の飼料用穀物は間接的影響に留まるため、食用野菜と比べて規制が緩いのです。
アメリカでは、飼料穀物を栽培するために、全米の農地の約半分となる1億4,900万エーカーが使用され、7,600万kgの農薬と77億kgの窒素肥料、大量の水が消費されています(EWG)。
窒素肥料は、土壌に吸収されると二酸化炭素の300倍も環境負荷の高い一酸化二窒素を生成します。
飼料を栽培するために農業用のトラクターや機械を使用することでも、温室効果ガスが排出されます。
また、世界中に飢餓に苦しむ人々が大勢いる中、動物の餌となる穀物を大量に栽培することの是非を問う声も上がっています。
理由その2.排泄物
動物の排泄物は本来、土壌に生息する微生物や虫などにより分解され、草や植物が育つための栄養素となります。
そして、再びその草を動物が食べ、分解され・・・と、循環していきます。
生態系には、無駄なものなど何もないはずなのです。
ところが、多くの食肉動物の飼育場では、効率を求めて狭い敷地内に大量の動物が押し込められているため、自然に分解・循環することが不可能なほど大量の排泄物が出ます。
そこで、人工的に微生物などを投入して分解させますが、排泄物が分解されるとアンモニアや硫化水素などのガスが発生するため、悪臭のみならず、大気が汚染され、地域住民に健康被害を及ぼします。
排泄物と共に流れ出る病原菌や有害物質により、土壌や地下水・河川が汚染される被害もあります。
牧畜業では、成長促進剤として抗生物質やホルモンを大量に投与することが慣習となっているため、家畜の排泄物に含まれるこれら物質が、土壌や水性環境を汚染し、最終的に地域住民の健康にも被害を及ぼします。
また、家畜への抗生物質の乱用により、抗生物質に耐性のある病原菌が出現し、動物や人に感染するなど深刻な被害も起こっています(NYTimes)。
現在、アメリカ国内の家畜飼育舎から出る排泄物の量は、年間5億トン。
これにより、34,000マイル(54,720km)の川、216,000エーカーの湖や貯水池が汚染されていると、環境団体は指摘しています(EWG)。
理由その3.ゲップ
牛や羊などの反芻動物が吐くゲップには、温室効果ガスのひとつであるメタンが含まれています。
メタンは、二酸化炭素の20倍以上も環境負荷が高く、大気中に9-15年も残留します(米環境省)。
現在、食肉動物の放牧に使用されている土地は、アメリカ国内だけで7億エーカーにも上ります。
気候変動が深刻化する中、この広大な土地で飼育されている膨大な数の家畜動物が吐くゲップが、深刻な問題となっているのです。
理由その4.熱帯雨林
熱帯雨林の破壊は、地球全体の深刻な問題です。
実は、この原因のひとつは家畜業にあるのです。
熱帯雨林地域に住む人々は、貧しく日々の生活に困っていることが多く、違法と知りながら森林を伐採し、お金になる家畜の放牧を行ってしまいます。
CO2を吸収する貴重な自然資源である熱帯雨林の破壊は、気候変動の要因の15%を占めています(WWF)。
私たちが必要以上に肉を食べず、世界全体でお金が適切に分配されれば、熱帯雨林を違法伐採してまで放牧をする必要がなくなるのです。
理由その5.食肉解体場の廃棄物
食肉解体場から出る廃棄物も、環境問題のひとつです。
アメリカ国内だけで、年間90億もの動物が食肉用に処理され、解体後に捨てられる廃棄物や処理後の廃水に含まれる有害物質が土壌や河川を汚染しています。
2009年には、米国内の32の食肉解体場から硝酸塩などの有害物質が5,500万パウンド(2,500万kg)も排出されています(EWG)。
理由その6.輸送・保管・販売
肉や乳製品を配送、加工、冷蔵保管、販売、調理する際にも、さまざまな環境負荷が生み出されます。
ただし、これらは野菜やその他食品でも同様で、肉や乳製品に限ったことではありません。
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このように、肉を生産すること自体の環境負荷が高いにも関わらず、現代の畜産方法がそれに拍車をかけています。
しかし、もっとも大きな要因は、私たちが肉や乳製品を消費し過ぎていることにあるのです。
世界の肉の生産量は、年3億トン(FAO、2012)。
1人当たり年間消費量は、肉が41.2kg、牛乳は82.1kg、卵は9kg。
比較的少ないように見えますが、これは途上国も含めての値。
先進国のみでは、肉82.1kg、牛乳207.7kg、卵13kgと、数値が跳ね上がります。
国別で見ると、意外にも一人当たり消費量が一番多いのは、ルクセンブルグ(年142.5kg)。
次いで、香港(134.2kg)、アメリカ(126.6kg)、オーストラリア(117.6kg)。
日本は、先進国の中で最も少なく、45.4kg。
しかし、安心してはいけません。
肉・牛乳・卵を合わせた輸入額を見ると、日本(90億ドル)は、ドイツ(108億ドル)・イギリス(102億ドル)に次いで世界3位。
ドイツは輸出額(125億ドル)も世界一位ですからバランスが取れていますが、日本は輸出額が2,500万ドルと先進国中下から3番目(以上すべてFAO、2009)。
つまり、日本は、自国の資源は汚さず他国の資源を利用・汚染して、肉・乳製品を消費しているということです。
オーストラリアの研究者によると、赤身肉を1人当たり1日50g、白身肉40g(ハンバーガーひとつと鶏胸肉一枚)に消費を抑えれば、1995年と同水準の温室効果ガス排出量を維持できるとのこと(New Scientist)。
日本人の1日の消費量は124gですから、34g消費量を減らし、外国産の代わりに国産消費を増やせばいいように感じますが、そう単純なことではありません。
今後、新興国や途上国の人々が豊かになり、肉を食べるようになると、消費量は莫大に増えます。
世界全体で1日90gに消費を抑えるためには、先進国は大幅に消費を減らさなければならないのです。
かといって、いきなりベジタリアンになるのは無理な話。
そこで欧米では、徐々に肉食を減らすよう、週に一度肉を食べない日を設けるキャンペーンが行われています。
2003年に創設された「ミートレス・マンデー」は、環境ではなく健康のためにと、引退した元広告マンが作ったアメリカのNPO。
「ミートフリー・マンデー」は、ポール・マッカートニーがシェリル・クロウやクリス・マーチンなどセレブ仲間と共に2009年にイギリスで創設したキャンペーン。
いずれも、ケイト・モスやグイネス・パルトロウをはじめとする多くのセレブが支援しています。
ミートレス・マンデーには、マリオ・バタリなど有名シェフが参画し、レストランで月曜に肉料理を出さないことに決めています。
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どれだけ肉を食べようと、私たちが生きている間に壊滅的な環境問題が起こることはないかもしれません。
しかし、世界中で頻発・肥大化する自然災害から、私たち人類の行為が自然に大きな影響を及ぼし、自らの首を絞めていることが明らかになってきています。
次の世代に大きな禍根を残すことがわかっていながら、このまま必要以上に贅沢な暮らしを続けて良いのでしょうか。
私たちが生きている以上、環境負荷をゼロにすることはできません。
しかし、努力次第でゼロに近づけることはできるのです。
週にたった1日、もう少しがんばって週3日、肉を食べなければ、次世代の人たちも私たちと同じように豊かな暮らしができるかもしれません。
将来の行方がどうなるかは、私たちの行動次第。
今週から、肉なしデーを作ってみませんか。
2012/07/17