カーボンフットプリント Carbon Footprint

Carbon Footprint
(Photo by thinkpanama from Flickr.com)

カーボン・フットプリント、カーボン・オフセット、カーボン・ニュートラル・・・最近よく聞くカーボン○○、ということば。
環境に関係するのはわかるし、二酸化炭素排出に関係しているのもなんとなくわかる。でも、具体的にどういう意味なのか、よくわかりませんよね。

カーボンは英語で炭素のことですが、環境関連でカーボンといえば二酸化炭素、あるいは温室効果ガス全般のことを指します。

二酸化炭素は、正式には"カーボン・ダイオキサイド(CO2)"ですが、日本で二酸化炭素排出量が少ない社会のことを"低炭素社会"と呼ぶのと同様に、英語でも省略してカーボンと呼びます。

温室効果ガスとは、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素(=一酸化二窒素)、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄など、温暖化を促す気体の総称。
気体によって温暖化に寄与する度合いが異なるので、温室効果ガスの総量を算出する際には、最も大きな構成要素である二酸化炭素を基準とします。
二酸化炭素を1とすると、メタンはその21倍、亜酸化窒素は310倍、その他は1,000~1万倍の温暖化影響力を持ちます(米環境保護庁)。
そのため、温室効果ガス全体のことをカーボンと呼ぶのです。

大気中の温室効果ガス蓄積量が増えれば増えるほど、気温が上昇します。
温暖化が進むと、気候変動や生態系の変化が起こります。
それによって、海面の上昇、自然災害の多発、食糧生産量の減少、利用可能な水量の減少、害虫や疫病の拡散などが起こり、人類の生存を脅かします。
既にこうした現象は世界中で深刻化しており、このまま気候変動が続けば、人類に甚大な被害を及ぼすと考えられています。
温室効果ガスは主に人間の活動によって増えるため、世界各国が排出量削減に取り組んでいるのです。
(米環境保護庁IPCC)

排出量を削減するためには、まず、現在どれだけ排出しているかを知らなくてはなりません。
それが、カーボン・フットプリント

フットプリントとは、英語で「足跡」のこと。
カーボン・フットプリントは「温室効果ガスの足跡」、つまり、自分の行動によってどれだけ温室効果ガスを排出したか、という意味です。

温室効果ガスは、私たちの日々の行動により排出されます。
例えば、部屋の電気をつけたとき、料理を作ったとき、車を運転したとき、南国のフルーツや牛肉を食べたとき、服や家具や家電などの製品を買ったとき、飛行機で海外旅行したとき。
これらすべての行動が、温室効果ガス排出に影響を及ぼしているのです。

車や飛行機の排気ガスに温室効果ガスが含まれるのはわかりますが、電気を使ったときや物を買ったときに温室効果ガスが排出するというのは、どういうことでしょう。

電気は、石油や石炭・ガスなどの化石燃料を燃やして作られます(火力発電の場合)。
化石燃料を燃焼すると、温室効果ガスが排出されます。
そのため、照明をつけたり、電車に乗ったり、IHヒーターで料理するなど、家庭で電気を使うと間接的に温室効果ガス排出量を増加させたことになるのです。
燃料を燃やさない再生エネルギーで作られた電気を使えば、排出量は抑えられます。

牛や羊のゲップには、メタンが含まれています。
家畜の排泄物が分解される際にもメタンが排出されるので、肉や乳製品を食べると温室効果ガス排出に寄与したことになります。
野菜を栽培する際に窒素肥料を使ったり、規格に合わない野菜や虫喰った野菜を廃棄すれば、それらが分解される過程で温室効果ガスが排出されます。
服や家具や家電を生産する過程でも、化石燃料の燃焼や、化学・有機物質の反応・分解によって、温室効果ガスが排出されます。
製品を輸送する際、ガソリンやディーゼルを燃焼させて動くトラックや飛行機を使えば、ここでも温室効果ガスが排出されます。
生産地と販売地の距離が遠ければ遠いほど、排出量は多くなります。

また、ガスコンロで料理したり、車や飛行機で移動すれば、直接的に温室効果ガスを排出することになります。

このように、私たちは日々の生活で大量の温室効果ガスを排出しています。
カーボン・フットプリントを計測できるウエブサイトはたくさんあるので(例:米環境保護庁)、自分の生活がどれだけ気候変動に影響を及ぼしているかを知るために、活用してみるとよいでしょう。

自分のカーボン・フットプリントがわかったら、それを減らす努力をしなくてはなりません。
車の代わりに公共交通機関を使う、契約している家庭の電気やガスを温室効果ガス排出量の少ない再生エネルギーに切り替える、新品の代わりに古着やビンテージ家具を購入する、省エネ効果の高い家電を購入するなど、方法は色々あります。

企業もこうした努力を行っています。
最近は、多くの企業がカーボン・フットプリントを計測し、削減努力の成果をホームページなどで公表しています。(例:パタゴニア、デザインから出荷までの環境への影響を発表)

企業も消費者も皆で排出量を減らす努力をすれば、気候変動が進む速度は遅くなるはずです。

でも、現代社会で生活する以上、排出量をゼロにすることはできません。

そこで考えられたのが、カーボン・オフセット
オフセットは相殺するという意味。
排出した温室効果ガスと同等の削減効果がある活動に投資し、差し引きゼロにするということ。

たとえば、若木は二酸化炭素を吸収して酸素を排出するので、植林や森林保護することで二酸化炭素量を削減できます。
ところが、こうした活動は個人が実践するのは難しい。
そこで、植林事業や違法伐採を防ぐ活動を行っている企業や団体に投資することで、日々の生活でどうしてもゼロにしきれない分を補うのです。

植林以外にも、再生エネルギー事業やメタンを回収してエネルギーに変える事業、省エネ効率の高い事業などが代表的な投資先として挙げられます。
再生エネルギー事業は、直接温室効果ガスを削減するわけではありませんが、代わりに化石燃料を使った場合の排出量をカーボン・オフセット権として販売しています。

具体的に、どのようにカーボン・オフセットを行うのかというと・・・

たとえば、夏休みに飛行機に乗ってハワイに行った場合。
成田からホノルルまでの飛行機利用によって排出される二酸化炭素量は、1.09メートルトン。
ケニアで植樹活動を行う団体に15ドル、インドやトルコで再生エネルギー事業を行う団体に12.50ドルを支払えば、自分の代わりに飛行機利用と同等の排出量を削減してくれます(カーボン・フットプリント社による算出事例)。

自分で適切な投資先を見つけるのは難しいので、通常はカーボン・オフセット事業を行う団体(カーボン・オフセット・プロバイダー)を通して投資します。
プロバイダーは、企業や市民から資金を集め、提携する団体・企業に提供し、きちんと削減活動を行ったかを検証します。
提携先の団体や企業が確実に排出量削減活動を行ったかを、第三者機関が調査・認証するシステムもあります。

投資といっても、見返りとして得られるものは、金銭ではなく温室効果ガス削減。
将来への投資なので、寄付のようなものです。
企業は、オフセットにより企業価値向上が期待できるというメリットがあります。

オフセット権を金融商品として売買する市場もありますが、アメリカでは2003年にスタートしたシカゴ気候取引所が2010年末に廃止となりました。
温室効果ガス削減に関する法規制が整えば、金融商品としての魅力が高まるかもしれませんが、今のところ世界的な規制合意が得られていないため、地域レベルでの取引が主体になっています(排出権取引)。

本来、温室効果ガス削減は、地球上の全市民、企業、政府が自主的に行うべきものなので、カーボン・オフセットを金儲けに使うのは良いことではないのかもしれません。
でも、とかく人は目先の利益に目が眩んでしまうもの。
これから起こるであろう大きな気候変動を防ぎ、次世代の人々への負荷を減らすために投資しようと思える意識の高い人はまだまだ稀少なので、お金をモチベーションとして環境負荷を削減するのも悪いことではないのかもしれません。

また、カーボン・オフセットは、削減しきれない分を補うために活用すべきであり、まったく努力をせずにお金で解決するのは望ましいことではありません。

排出した温室効果ガスが相殺され、カーボン・フットプリントがゼロになることを、カーボン・ニュートラルといいます。

人間が生きていく以上、カーボン・ニュートラルにすることは難しいかもしれませんが、少しでもカーボン・フットプリントを減らす努力をし続けるしかありません。
次世代に安心して暮らせる環境を残せるかどうかは、私たちの努力次第なのです。

2012/02/16 訂正
2008/06/02

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