米環境保護庁、染料など新たな有害物質を
規制対象に

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(Photo by Rana X. from flickr.com)

アメリカ環境保護庁が、染料、難燃剤、業務用洗剤に含まれる3物質を、人体に危険を及ぼす有害物質として規制対象とすることを発表しました。

その物質とは、ベンジジン、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、 ノニルフェノール・ノニルフェノールエトキシレート(NP・NPE)の3つ。
聞いたこともないような難しい名前の物質ですが、いずれも、多くの消費者向け商品に含まれているものなのです。

ベンジジンは、繊維やペンキ、インクや紙、薬品用の染料として使われているもので、人体内で代謝し、発がん性物質になる可能性があります。
特に繊維や食品の染料として使われる場合は、危険性が高まります。
食品は体内に入るので当然ですし、服などの繊維は比較的安全に感じますが、長い間皮膚に触れていると皮膚の表面上から物質が体内に浸透してしまうのです。

環境保護庁は、ベンジジンと、ベンジジン系物質であるジメチルベンジジン、ジメトキシベンジジン、ジクロロベンジジンの4物質に対して、規制を強化していく方針です。
有害物質規制法(Toxic Substances Control Act)に、これら物質に関する記載が盛り込まれる予定で、今後これら物質を使用する業者は事前に申請をしなければならなくなります。
但し、輸入された繊維製品にこれら物質が含まれている場合や既にこれら物質を使用して生産している場合の処遇は、今後検討していくことになります。

ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)は、建築業界用の発泡ポリスチレンフォームに使用されている難分解性の(分解が難しく、堆積してしまう)物質で、生殖系や神経系への影響、発育不全などの人体への影響が懸念されています。
この物質は生物濃縮されるので、食物連鎖の高位の動物ほど影響を受けやすくなります。すでに、人間の母乳や脂肪、血液の中にも堆積していることが発見されています。

環境保護庁は、この物質を有害物質規制法の懸念物質リストに加え、特に消費者向け繊維製品に難燃剤として使われる場合に規制を施すことを検討しています。
さらに、HBCDを使用した製品自体の製造・販売を禁止することや廃液規制をかけること、同庁が公開している「環境に配慮したデザイン(Design for Environment)」の中に、HBCDを使わないという項目を入れることも視野に入れています。

ノニルフェノール・ノニルフェノールエトキシレート(NP・NPE)は、洗剤、洗浄剤、殺虫剤、食品用容器などに使われる界面活性剤で、内分泌攪乱など人体に影響を及す可能性があります。

段階的廃止、その他物質も規制を検討

環境保護庁は、これら物質を含む業界用洗濯洗剤を段階的に廃止するよう、業界に促し支援しています(2013年までに液体洗剤、2014年までに粉洗剤)。
これを受け、繊維製品のレンタルサービス協会は段階的廃止を決定しています。
また、直接大気中にこの物質が排出されてしまうタイプの製品(消化剤や防塵剤、解氷剤など)を生産する業界や、水中に排出されてしまう処理(パルプ・製紙生産、繊維生産など)を行う業界にも、これら物質を使用しないよう呼びかけ、同時に、代替物質の開発・研究も続けています。
有害物質規制法の懸念物質リストや廃液規制物質リストに加えることも検討しています。

これら3物質以外にも、環境保護庁は09年12月以降、プラスチック容器などに含まれる有害物質BPA(ビスフェノールA)、テフロン加工の鍋やウォータープルーフ加工の服などから検出されたという報告が出ているPFC(パーフルオロカーボン)、難燃剤として使われ神経行動に異常を来たす可能性のあるPBDE類(ポリ臭素化ジフェニルエーテル)、PVC(塩化ビニル)製造時に可塑剤として使用されるフタル酸エステル類、日本では食品から検出されている短鎖塩素化パラフィンなど、さまざまな物質に関する規制計画を発表しています。

化学物質の有害性に関しては、何が良くて何が悪いのか、どういった製品にどのような物質が使われているのか、専門知識ない私たちにはわからないことだらけ。

たとえ有害であることがわかっていても、産業からの圧力で政府が規制を掛けられないこともあるようで、国・地域ごとに規制対象・内容が異なっていることも多く、消費者が混乱してしまうのも仕方ありません。

世界中の皆が、自分の利益だけでなく、本当に大切なことを考えて行動すればこうした混乱は避けることができるのでしょうけれど、なかなかそういうわけにもいかないようです。

世の中が便利になっていくのは良いことですが、せっかくの便利な生活が、翻って自分や子供達の健康を害したり、地球を汚染するのでは意味がありません。

何かを購入する際、製品に記載されている成分表を読み、規制されている物質が入っているものは買わないこと、ニュースなどで危険だと話題に上った物質や製品には気を配ること、そして話題になった後どうなったのかを追いかけていくことも、消費者にとっての防衛策といえるでしょう。

いずれにしても、あまり加工などが施されていない昔ながらのシンプルな製品を使い、シンプルな生活を送ることが、こうした被害を避けるための良い対応策なのかもしれません。

Environmental Protection Agency,
Existing Chemicals Action Plans
ウエブサイト: http://www.epa.gov/oppt/existingchemicals/pubs/ecactionpln.html

2010/09/01

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