米環境保護局(EPA)、
温室効果ガスに関する声明を発表

アメリカ環境保護局(EPA)が、温室効果ガスに関する声明を発表しました。

声明の主な内容は、EPAが"温室効果ガスは人間の健康と環境に脅かすという結論に達した"ことですが、なぜEPAはこのような発表をしたのでしょうか。

政権により変わる見解

EPAとは1970年に設立された政府組織であり、同年にクリーンエア法(大気汚染防止法)という法律も可決されています。

まず前提として、EPAは政府組織ですから、政権が変わるとEPAの人材も入れ替わり、EPAの見解も政府(≒大統領)の政策に伴い変わります。

昨年まで8年間続いたブッシュ政権では、環境対策に積極的ではなかったこともあり、EPAがクリーンエア法に基づいて温室効果ガスを規制する権限はない(クリーンエア法は温室効果ガスを含まない)という見解でした(その前のクリントン政権・現オバマ政権は、権限はあるという見解)。

そのため、2003年にEPAは、マサチューセッツ他12州といくつかの市が起こした、自動車から排出されるCO2やその他温室効果ガスの規制を求める訴訟を棄却しています。
その際にEPAが出した結論は、以下の2つです。

1. EPAは、クリーンエア法の下、気候変動目的でCO2やその他温室効果ガスを規制する権限を持たない

2. EPAは、自動車向けの温室効果ガス排出を規制することは、現時点で適切ではないと決断を下した

そこで、原告はこの訴訟を最高裁に持ち込みました。
結果、2007年、最高裁は”クリーン・エア法は温室効果ガスも対象とする(つまり、EPAはクリーン・エア法に基づいて温室効果ガスを規制できる)"という判決を下しました。
ただし、温室効果ガスが大気汚染の原因であり、それが国民の健康と福祉を危険に晒すということ、その決断をするための科学的根拠が十分であることを証明しなければならない、という限定付でした。

2009年4月、EPAはこの限定に対し、温室効果ガスの規制を課すに足る危険性があると決断し、その後60日間を民間意見調査期間としました。

そして、12月7日、民間意見調査の結果、EPAは以下2つの最終決断を発表しました。

1. 大気中の温室効果ガス(CO2、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン、ペルフルオロカーボン、六フッ化硫黄の6物質)は、現在と将来の世代の国民の健康と福祉を危険に晒す

2. 自動車と自動車エンジンから排出される温室効果ガスは、大気汚染の原因となり、国民の健康と福祉を危険に晒す

それが、EPA長官であるジョンソン氏の声明の趣旨なのです。

声明の意図

この声明から、いくつか主要な点を抜き出いてみます。

「今日、EPAは、"温室効果ガスは人の健康と福祉を危険に晒すいう結論"に達し、クリーン・エア法に基づき、温室効果ガス削減のための取り組みに関する権限と義務を持つ。」

「今年初旬、EPAは温室効果ガス報告システムを設立した。米国内の排出量の大きい団体(排出量25,000トン以上の工場など)は、来月からEPAと連携して排出量を監視し始め、2011年からは温室効果ガス排出量を追跡可能な情報を公開することになる。」

「この"温室効果ガスは人の健康と福祉を危険に晒すという結論"は、低公害車プログラムを成立させるための法的根拠となる。このプログラムは米自動車業界とその利害関係者により開発されたものであり、米国の自動車に対する温室効果ガス排出量規制を含んでいる。
来春から、排出量の多い施設は、建設・拡張する際に、利用可能な最善の温室効果ガス排出量調整手段を採用しなければならない。」

「この法案を議会が可決し、実行されることを楽しみにしている。」

つまり、この発表により、議会(下院は既に可決しているので、現在は上院の結果待ち)が法案を可決するか否かに関わらず、EPAは温室効果ガスを規制する権限を持つということが決定したということですが、EPAはあくまで議会での可決を期待していると表明しています。

また、2003年時の訴訟において問題となっていた自動車業界だけでなく、温室効果ガス排出量が多ければ業界を問わず規制対象になるということも示唆しています。

そしてもうひとつ(恐らくそれがこの発表の最大の理由と言われていますが)、この発表により意味があるのは、来週オバマ大統領が、現在コペンハーゲンで開催されているCOP15(国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議)に参加しますが、その際に、上院の可決がなくても大統領権限で温室効果ガス規制できるという後ろ盾を持っていくことになるので、発言力が強くなるということです。

また、もうひとつ、ジョンソン長官がこの発表の中で強く言及していたことがあります。

「懐疑派が科学に対する疑いの種を植え付けようとしていることは認識しているが、膨大な証拠にも関わらず、疑惑の声を高めるこの戦術は、反対派の常套手段である。こうした手段は、クリーンエネルギー経済の成長や海外の石油への依存からの脱却といった本来行うべき作業から目を逸らし、実行を遅らせるために行われている。
科学自体がこれを証明すべき時である。我々が出した結論は、過去何十年に渡り測定され、専門家により検証され、広く評価された科学データに基づいたものである。そのデータは、アメリカや世界中の科学者により提供されたものである。」

これは、先月、イギリスのイースト・アングリア大学の研究者のメールが流出し、その中に地球温暖化が誇張されたものであると取れる内容が含まれていたという事件(ウォーターゲートに絡めてクライメート(気候)・ゲートと呼ばれています)に対しての発言です。

この事件に関しては、流出したメールの引用のされ方が故意的であることや、COP15の直前のタイミングであったことなどから、陰謀説が強いようですが、真偽はまだ判明していません。

ただ、ジョンソン氏が言及している通り、この事件だけでなく、これまでも温暖化に対する懐疑的な意見は色々と出ていますが、本当に科学的根拠に基づく反論ならば、きちんとした形で公表し、どのような対策を行うべきかを明確にすべきでしょう。
権威ある研究者として、政治的圧力に負けず、私欲に溺れず、社会のため、人類と地球の将来のために正しい判断をしてほしいものです。

地球の真実のすべてを人間が知ることはできないかもしれませんが、温暖化に向かうにせよ寒冷化に向かうにせよ、気候変動が起こっている事実は間違いないのであり、それに対し、私たちが何かしなければならないのは確かです。
反対派の意見はとても重要ですが、世界的な決断に対し、ただ反論や批判するのではなく、そのどこか間違っていて、どう正し、どう対処すべきかを示せれば、建設的な発展が望めるでしょう。

いずれにしても、このEPAの発表により、少しでも世の中が良い方向に向かうことを期待したいですね。

EPA
ウエブサイト: http://www.epa.gov/

2009/12/10

  • ピックアップ記事