どこまで進む?ウォルマートのサステナブル化
サプライヤーへのサステナブル指標導入と
全社員保険加入へ
(Photo courtesy of Wal-Mart Stores, Inc.)
ウォルマートが、全サプライヤーの全商品にサステナブル指標を導入し、全商品にサステナブル・ラベルを貼付することを決定しました。
さらに、オバマ大統領の保険改革案に支持を表明し、全社員への保険適用するという書簡に署名と、たて続けに大きなニュースを発表。
ウォルマートのサステナブル化は、いったいどこまで進むのか、留まるところを知らない勢いになってきました。
まず、サステナブル指標ですが、最終的に世界中のウォルマート傘下店舗で扱う全商品に、どのくらいサステナブルかを示すラベルやマークを付ける、というもので、今後、以下3つの段階を経て導入する予定。
最終導入時期はまだ未定。以前同社がパッケージング・スコアカードを導入したときは1年ほどかかりましたが、今度はさらに大掛かりな仕組みなので、それよりも時間がかかるものと思われます。
第1段階は、サプライヤー評価。
世界中の10万のサプライヤーに対し、環境・気候、材料効率、自然資源、人・コミュニティの観点から、15の質問をします。
環境・気候からは、温室効果ガスについて、排出量の測定をしているか、削減目標値を公表しているかなど、材料効率からは、廃棄物の削減と水資源の有効利用について、自然資源からは、下請け企業に対して環境や労働条件に配慮したガイドラインを設けているか、商品に対して何らかの第三者認証を得ているか、人・コミュニティからは、生産工場の労働環境改善施策に関する質問が設けられています。
米国内のサプライヤーに対しては、これら質問の回答期限を10月1日としており、海外のサプライヤーに関しては、国別に決定するとのこと。
第2段階は、ライフサイクル・アセスメントのデータベース構築。
ウォルマートのお膝元、アーカンソー大学とアリゾナ大学を中心とした大学連合を作り、サプライヤー、小売企業、NGO、政府の協力のもと、第1段階で集めたデータを基に、商品ライフサイクルに関する世界的なデータベースを構築します。
上記二校が管理校となりますが、今後参画を検討している大学とも話し合いが進められているそうです。
さらに、IT企業と提携し、指標を使用するためのオープン・プラットフォームも作成します。
そして第3段階では、商品ごとにサステナブル指標を明示します。どういう形で明示するかはまだ検討中ですが、消費者がわかりやすいように、数字、色、ラベルなどの方法が考えられるとのこと。
ウォルマートは、この連合形成のための初期費用を投資しますが、構築したデータベースや指標を独占するつもりはないとしています。
この計画が世の中にものすごく大きな影響を及ぼすであろう壮大なものであることがお分かりいただけるでしょうか。
もちろん、これまでにも、パタゴニア、ナイキのコンシダード基準、ティンバーランドなど、多くのメーカーが独自のサステナブル基準を作り上げてきましたが、この規模の小売企業がサプライヤーに対してこうした試みを行うのは初めてでしょう。
それに、たとえこれがウォルマート自社のみの指標やシステム作りであったとしても、世界最大の小売業がサプライヤーに及ぼす影響は計り知れないものがありますが、これは自社のみが使用するものではなく、オープンプラットフォームにするというのが、すごいところ。
既に、ベストバイやコスコ、最大のライバルであるターゲットとも、この指標の使用に関する話し合いを進めているという情報も出ています。
世界中の商品が、この指標に基づいて評価され、消費者がそれに基づいて商品を購入するようになれば、世の中は大きく変わるはずです。
これまで、企業利益のために犠牲にされていたであろう環境負荷や社会への悪影響が、この指標により露わになってしまうので、作り手は環境や社会に配慮せざるを得なくなる、というわけです。
さらに、ウォルマートは、オバマ大統領への書簡という形で、全従業員への保険加入を義務付けることを発表しました。
アメリカの保険制度は、日本と異なり、国民皆保険ではありません。
低所得者層と高齢者に対しては国の保険制度はありますが、それ以外の人は民間の保険に入らないとなりません。
しかも、アメリカは医療レベルが高度なことや、医療訴訟の多発、無保険者の医療費を実質的には良心的な病院がカバーしていることなどが原因となり、医療費も民間保険料も非常に高く、保険に加入できない人が非常に多いのです。
たとえ保険に入っていても、よほど高額の保険に加入していない限り、大きな手術をすれば保険にカバーされず自己負担となり、支払いきれずに自己破産となってしまうケースも非常に多く、不況により、高騰を続ける保険料を払いきれなくなる雇用主が従業員の保険を打ち切るといった事態も起こっています。
こうした負の連鎖を打ち切るべく、オバマ大統領は保健制度改革を主要政策のひとつに掲げています。その中で、大企業は従業員に保険加入の責任を持つべきという概念があります。
ウォルマートはこれに支持を表明。
米最大の従業員を抱える同社は、この政策の一翼を担う必要があるということで、ウォルマートは、全従業員の保険加入を義務付けるという書簡に署名しました。
これに対し、小売企業を守ろうとする全米小売協会が、このウォルマートの施策が、不況から立ち上がろうとしている小売企業に影響を与えるとして反意を示すなど、業界全体としては反対ムード。
ウォルマート側は、たとえ一時的なコスト増になったとしても、低所得者・無保険者の医療費を税金によって賄っている現状を鑑みれば、全企業が従業員の保険をカバーすることで、税金も医療費も安くなり、最終的には企業のコスト削減につながる、と主張しています。
アメリカの保険問題は非常に根が深く、ひとつの側面に対して簡単に是非を判断できるものではありませんが、ウォルマートが採った決断は、大企業だからこそできることがある、誰かがいつかはやらなければならないことを、社会を変えるために自分達が今行動に移すべき、という考えによるものなのではないでしょうか。
かつては、安く商品を販売するために、低い賃金や最低限の保障といった形で従業員に不当な扱いをし、多方面から非難されていたウォルマート。
そうした批判を真摯に受け止め、対応策を出す、という姿勢に変わりはじめ、いまや環境・社会・人を大切にする、サステナビリティにおけるリーディングカンパニーとなっています。
巨大企業だからこそ、効果は大きい。
それを認識して次々と前人未到の施策を打ち出すウォルマートが、この先どこまでサステナブルになり、社会全体をサステナブルにし得るのか、期待したいところです。
Walmart Stores
ウエブサイト:http://walmartstores.com/
2009/07/20