ミルクペイント Milk Paint

milk paint
(Photos Courtesy of The Old Fashioned Milk Paint Co., Inc.)

鼻に付くペンキの匂い、気になったことありませんか。

自宅でDIYを楽しむのなら我慢できますが、家やオフィスの近隣から流れてくる匂いは耐え難いもの。

ペンキにはさまざまな有害物質が含まれているので、匂いで気分が悪くなるのも当然です。

その代表格が、揮発性有機化合物(VOC)。
VOCとは、常温で揮発(気体となって発散)する物質の総称で、ホルムアルデヒド、トルエン、キシレン、酢酸エチルなどさまざまな物質が含まれます。

ペンキを塗ると、こうした物質が空中に飛散します。
息を吸うと、これらの有害物質が空気と共に体内に入り、シックハウス症候群などの原因となることも。
しかも、塗装直後だけではなく、何年も、場合によっては何十年も飛散し続けるので、長期にわたり人体に害を及ぼします。
特に、室内でペンキを塗ると、戸外に比べて飛散の密度が2-5倍に。
塗装中や塗装直後は、1000倍になることもあるのだそう(米環境省)。

人体だけでなく、環境にも影響を及ぼします。

飛散した物質が太陽の光にあたると、化学反応を起こし光化学スモッグの原因となることもあります。
また、VOCは分解しにくい物質が多いため、地面や川に浸透すると長期にわたって土壌や水を汚染します。

「低VOC」「VOC未使用」の製品は安全?

こうした危険性が明るみに出てから、VOC使用量を減らしたペンキや、VOCを一切使用しないペンキが販売されるようになりました。

ところが、「低VOC」製品は多少のVOCを含んでいますし、アメリカでは「VOCフリー」「VOCゼロ」などと書かれたものでも、1リットル当たり5グラムまではVOCを含んでもよいことになっているので、危険性を完全に回避できるわけではありません。

そこで、昔ながらの製法で作られた、VOCを含まないペンキに注目が集まっています。

粘土や石灰、滑石(ベビーパウダーの原料)、天然ゴム、蜜ろうなど、さまざまな天然素材のペンキが出揃っていますが、オススメなのは、牛乳のたんぱく質(カゼイン)を原料とする「ミルクペイント」。

milk paint

ミルクペイントは、ミルクカゼインと石灰を主成分とし、色の基となる顔料には黄土やアンバー、酸化鉄、油煙などの天然鉱物を使用しています。

6000年前にこの製法で作った塗料が使われた記録が残っているほど、古い手法なのだそう。

ミルクカゼインを使用したペンキは他にもありますが、石灰の代わりに発がん性物質であるホルムアルデヒドや有毒性のあるホウ砂を使用したもの、アクリルやアセテートなどの合成プラスチック成分、油などが添加されているものも。

ミルクペイントは天然成分のみで作られ、VOCだけでなく、鉛も水銀も防腐剤も防カビ剤も炭化水素も石油由来の成分も使用していないので、化学物質過敏症の方や妊婦、子供にも安全で、環境への悪影響もないのだそう(ミルクペイント社)。

100%安全なペンキはない

ただし、ミルクペイントには結晶シリカという発がん性の可能性があるとされる成分が含まれています。

結晶シリカは、自然界に多く存在する物質ですが、大量に摂取すれば人体に害を及ぼします。
岩や石、砂などを専門に扱う仕事に就く人にとっては、注意すべき物質です。
ミルクペイントに含まれる結晶シリカは、政府規定内の極微量なので、塗ってもやすりで削っても人体に影響はないのだそう。

そもそも、ペンキであれ布の染料であれ、すべての人に100%安全な染色方法などありません。

色をつけることは、本来モノの使用目的を果たすのには必要のない行為。
多くの場合、色は見た目を楽しむためにつけるものなので、安全性を求めるのであれば、染色せずに素材そのものの色を楽しめば良いのです。

また、ペンキに有害物質を使用するのは、均質性や保存性など、利便性を追及するため。
便利さと体や環境への悪影響は、表裏一体といえるのです。

アンティーク調の仕上がりが魅力

ミルクペイントは、有害物質を使わない代わりに、一般のペンキと比べてデメリットがあります。

まず、粉状で販売されているので、使用する際に水に溶かさなければなりません。
また、天然成分のみを使用しているので、パッケージごとに完全に同じ色を出すことが難しいという側面も。
さらに、色ムラができやすく、雨が当たる戸外での利用には適しません。

ところが、このデメリットが、ミルクペイントの最大の特徴でもあるのです。

色ムラができることでアンティーク調の仕上がりになり、同じ色が出せないためにオリジナリティが出ます。
この風合いを求めて、ミルクペイントファンになる人が続出。
アンティークテイストを強調したい人のために、ひび割れ加工を施す製品「アンティーク・クラックル」も用意されているほど。

油分を使っていないので、乾きが早いというメリットもあります。

そして、一般のペンキにあるようなツンとする匂いは一切なく、乾くまでの間に少し釣りの餌のような健康的な匂いがします。

safe paint

ミルクペイントは木やレンガなど多孔質の素材に適したペンキですが、壁や石膏ボードなど大きな面積の塗装用に「セイフペイント」という製品が用意されています。
セイフペイントは、ミルクペイントと同じ製法で作られていますが、より耐水性があり、仕上がりが均質的。
プロ仕様なので、多くのレストランや小売店で使われているそう。

いずれも、カラーは全20色。
時が経つほど味が出そうなビンテージ調の色が揃っています。
一般のペンキに比べると色数は少なめですが、各色に白(Snow White)を混ぜれば、無限のバリエーションを楽しめます。

便利さと、体や環境への安全性、どちらを取るかはあなた次第。
一度使ってみれば、ミルクペイントの良さを実感できますよ。

The Old Fashioned Milk Paint
ウエブサイト:http://www.milkpaint.com/

2011/07/20

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