サイエンス・バージ Science Barge

Science Barge

人間が生きていくために、なくてはならない最も大切なもの、食物。
服やバッグや化粧品は、あれば幸せだけど、なくても生きてはいけます。
でも、食物がなければ、人は生きていけません。

大切な食物だからこそ、農薬や殺虫剤が使われていたり、遺伝子操作されている不自然なものは避けたいところ。
たくさんの食物を手に入れるために、栽培時に水を大量に消費したり、農機を動かすために大量のエネルギーを使用したり、遠い国から輸送するために化石燃料を使ったりするのも、なんだか本末転倒。
自然の摂理に従ってサステナブルに育てられた食物を、必要なだけ食べるようにすれば、人間と地球が共存できる素敵な世の中になりそうな気がしませんか。
しかも、土地が限られた都会でそんな生活が実現できたら、嬉しいですよね。

それを実現して見せてくれているのが、サイエンス・バージ。

「サイエンス・バージ」とは、直訳すると「科学の船」。
その名のとおり、船の上で科学の実験のようなことを行っているのです。

Science Barge

夏の間、マンハッタン西側のハドソン川に停泊している、サイエンス・バージ。
使用するエネルギーは、船上に設置されたソーラーパネル、風力タービン、植物油燃料の発電機から得た再生エネルギー。
水は、雨水や川の水を集め、ろ過して使っています。
農薬や殺虫剤を使わず、限られた土地を有効に使用して、都会でサステナブルに食物を栽培する試みを行っているのです。

現在、世界の人口の半分以上が都市に住んでいると言われています。
ところが、都市には作物を栽培するための十分な土地がありません。
そこで、都市部に住む人々に食糧を供給するために、郊外や海外の広大な土地で莫大な量の作物が栽培されています。
大量の作物を効率的に栽培するために農薬や殺虫剤が使われ、それによって土壌や河川・海が汚染されます。
収穫した作物をトラックや船・飛行機で都市に輸送するために、ガソリンやディーゼルなどの化石燃料が使われ、温室効果ガスが大気中に撒き散らされます。

そんな無駄なことをしなくても、都市部に住む人それぞれが、小さな土地で自分が食べる分だけを作れば、環境負荷が減るのでは?

そんなアイディアから生まれたのが、サイエンス・バージなのです。

Science Barge

サイエンス・バージでは、「循環温室水耕栽培(リサーキュレイティング・グリーンハウス・ハイドロポニックス)」という農法で、トマトやきゅうり、レタス、ピーマン、ハーブを育てています。

水耕栽培とは、土を使わずに養液の入った水を与えることで植物を栽培する農法。
通常の農法より作物が早く育ち、農薬も不要です。
鉢を上へ上へと重ねて利用できるので場所を取らず、水を循環して使用するから通常農法の4-10倍も節水効果があります。

サイエンス・バージでは、殺虫剤を使用する代わりにてんとう虫などの益虫を効果的に活用しています。
温室の温度調整にはエネルギーが必要ですが、自家発電した再生エネルギーを使用しているので、カーボンニュートラルといえます。

この活気的な仕組みを利用して、都市に住む人が食糧やエネルギーを自給自足できるようになれば、気候変動対策としても、いずれ起こるであろう食糧不足対策としても、効果が期待できます。

サイエンス・バージは、ニューヨーク・サンワークスという非営利団体が主催・運用しています。
一日に3-4回無料の講習を開催しているので、誰でも自由に、農法や再生エネルギーについて学ぶことができます。
希望する学校や団体には、特別講義も行ってくれます。

現在は、この手法を応用して学校の屋上で野菜を栽培する「グリーンハウス・プロジェクト」を展開し、これまでにニューヨーク市内の多くの学校に導入して、子供たちの食育に活用されています。

ニューヨークには、こうした貴重な知識を得られる無料の講習会や勉強会、プログラムがたくさんあります。
それが実現できるのは、非営利団体がしっかり機能しているからです。
非営利団体が機能するのは、企業や個人が寄付やボランティア活動に積極的に参加しているからです。
つまり、個人や企業がどのような行動をとるかによって、地域全体、国全体、翻って世界全体の教育や生活の質が決まるといえるのではないでしょうか。

今一度、自分自身や子供たちのためにどのような行動をとるべきなのか考え直してみると、素敵な将来が見えてくるかもしれません。

New York Sun Works, Science Barge
ウエブサイト:http://nysunworks.org/thesciencebarge/

2012/02/23 訂正
2008/09/19

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