急成長する「グルテンフリー」食品市場
米食品医薬品局が表示規制
アメリカで一大産業となっている、「グルテンフリー」食品。
グルテンとは、小麦や大麦、ライ麦などに含まれるタンパク質の一種で、これらを原料とするパンやケーキ、シリアル、パスタ、ピザなどに多く含まれています。
ところが近年、グルテンが引き起こす自己免疫疾患"セリアック病"を患う人が急増。
セリアック病とは、本来病原菌や異物を排除する役割のある免疫系が、正常な物質であるはずのグルテンに対して中毒反応を起こし、小腸の内膜を傷つけるという病気。
小腸内膜が損傷すると、食べ物の栄養分を吸収できなくなるため、どれだけ食べても栄養失調になったり、貧血や骨粗鬆症なども引き起こす危険な病気です。(FDA、セリアック病財団)
現時点でセリアック病の治療法は見つかっておらず、グルテンを摂取しない以外に対処法はありません。
セリアック病患者は、パンやケーキを食べたくても食べられず、限定的な食生活を強いられます。
そこで、食品メーカーや飲食店が、セリアック病患者向け、グルテンの代わりに米粉やタピオカ粉などを使用した「グルテンフリー」食品を開発。
自然食品店などを中心に、徐々に普及してきました。
ところが、次第に、グルテンフリー食品を食べると痩せる、あるいは、通常の食品より健康的といった噂がまことしやかに囁かれ、アレルギーやセリアック病とは無関係の人がグルテンフリー食品を好んで食べるようになったのです。
すると、この動向に商機を感じた大手企業が、次々と市場に参入。
シリアルやパスタに留まらず、グルテンフリーのビールやスナックまでもが一般のスーパーマーケットに並び、グルテンフリー食専門のレストランまで出現するほどに。
一方、ブームに乗じて参入した企業が、セリアック病の危険性を十分把握せずに、グルテンを含む食品とグルテンフリーを同じ工場のラインで生産し、グルテンが混入してしまったり、元々グルテンを含んでいない無関係の食品に「グルテンフリー」と表記したりと、由々しき事態が発生。
食事の選択肢は増えたものの、セリアック病患者が何を信じて良いのかわからない状況に陥ってしまいました。
米食品医薬品局(FDA)は、食品アレルギー・消費者保護法が制定された2004年からこの問題に取り組んでいましたが、9年もの歳月を経て、ようやく今月、表記基準を制定。
一食品あたりのグルテン含有値を、セリアック病患者でも耐え得る20ppm以下と定めました。
ただし、その基準を満たしさえすれば、本来グルテンが含まれることのない、水や野菜、果物、卵などでも「グルテンフリー」と表記してよいことに。
この規制内容では便乗マーケティングを抑制することにはなりませんが、少なくとも、セリアック病患者が安心してグルテンフリー食品を食べられるようにはなりました。
FDAによると、現在セリアック病患者は全米で300万人ほど。
グルテンの耐性が弱い人を含めると、1,800万人にも上るそう(セリアック研究治療センター)。
数十年の間になぜこれほど急激にグルテンに耐性のない人が増加したのか、理由は未だ判明していません。
遺伝、グルテンの過剰摂取、母乳育児の減少、小腸内に混入した微生物の所作など、さまざまな説がありますが、直接的な原因は依然不明のまま(ニューヨークタイムズ、セリアック病財団)。
いずれにしても、人間の体は食べ物で作られるもの。
健康維持のためには、特定の食品が良いという"噂"に惑わされず、添加物や農薬が含まれない自然な食品を、バランスよく食べるに越したことはないでしょう。
US Food and Drug Administration
ウエブサイト:http://www.fda.gov/
2013/08/13