ブラジル熱帯雨林とレザーシューズの関係って?
ナイキ、アディダス、ティンバーランドなどシューズブランド、レザーのトレーサビリティを一斉強化
(Photo courtesy of Nike, Inc.)
ブラジルの熱帯雨林と、ナイキやアディダスのレザーシューズ。
何だかまったく関係ないように見えるこのふたつ、実は環境問題を切り口に深くつながっているのです。
中南米9カ国にまたがるアマゾンの熱帯雨林は、気候変動を食い止めるために必要なとても大切な地球資源。炭素蓄積量は800-1,200万トンとも言われています。
ところが、アマゾンでは1970年代以来、様々な用途で森林伐採が行われ、特にここ数十年の間に過剰な森林伐採が続き、熱帯雨林が破壊されつつあります。
中でもブラジルでの森林破壊はひどく、違法に伐採した土地で、牛肉や牛革を販売するための商用牧畜をするという行為が横行しているのだそう。
そうした状況に危機感を抱いた環境団体グリーンピースが、今年6月、「アマゾンの虐殺」と題するレポートを発表。
レポートでは、ブラジルの森林破壊の実態とブラジル政府の関与、そしてレザー・牛肉大手業者と、それら企業と取引している欧米の有名ブランドを名指しで批判。
3年の歳月をかけて作られたとされる100ページ超の膨大なレポートは、誰もが無料でダウンロードして読めることもあり、世界中で大きな反響を呼びました。
そして、このレポートを機にいくつかの企業がすぐさま行動を起こしたのです。
ブラジルのウォルマートやカルフールなど大手スーパーは、アマゾンの森林伐採に関わる牛製品全般の取引を禁止。
そして、ナイキやアディダス、ティンバーランド、クラークスなど世界的に有名なシューズブランドが、続々とレザーの製造元を明らかにするためのトレーサビリティ(追跡可能性)強化策を発表しました。
これら小売企業やシューズブランドの他にも、日欧米のハイエンドファッションブランドや車・食品・家具・日用品メーカー、百貨店、ファーストフードなどがレポートで指摘されていたのですが、現状で行動に移しているのは、上記業界のみ。
シューズブランドが即座に反応したのは、スポーツ・アウトドアという自然と関係の深いカテゴリの企業ゆえに元々環境問題への意識が高かったためだと思われます。
そして、現時点では、レザーがどこの牧場の家畜をどのように製造したのか、トレーサビリティを証明するシステムが存在しないため、正当性を主張する手段がなかったことも理由のひとつと考えられます。
大量の有害物質を使用する皮のなめし工程に関しては、レザー・ワーキング・グループという団体などが中心となり環境基準監査を行っていますが、なめす前の皮がどこの牧場の家畜のものかを追う仕組みがないことが問題なのです。
ナイキは、グリーンピースのレポート公表後すぐに、レザーサプライヤーとの協議を開始。同社製品にはアマゾン起源のレザーは使用されていないことが判明したものの、上記の通りそれを証明する手段がないため、レザーの調達方針に関するガイドラインを発表しました。
サプライヤーに対しては来年中にレザーのトレーサビリティシステムを確立し、今年12月までにレザー・ワーキング・グループに加盟することを要請。
そして同社はグリーンピースが発行する森林伐採に反対する誓約文にサインしました。
さらに、ブラジルの食肉・レザー取引に関わる業界に対して、アマゾンの生態系を犯していないことを認証するシステムの設立を呼びかけ、グリーンピースやレザー・ワーキング・グループ、その他関連団体と共にシステム設立に向けて動いています。
同様にアディダスも、レザーサプライヤーに対し、政府あるいは森林保護を支持する市町村公認の牧場のレザーのみを取り扱うこと、2010年7月1日までに、アマゾン生態系で育てられた家畜ではないことを証明するシステムを構築すること、保護区域の牧場の家畜を使用しないこと、国際労働機関(ILO)傘下団体に登録している人道的な労働条件に沿った牧場の家畜を使用すること、を要求。
ティンバーランドは、グリーンピースのレポートに指摘されたレザー大手企業との取引があることを明示し、それらレザーサプライヤーに対し、2009年8月15日までにアマゾン生態系における森林破壊を停止し、トレーサビリティ方針と監視システムを確立することを要求しています。
これら企業がこのような早急な行動に出たのは、レポートで名指しされたためであることは間違いないでしょうが、社名が挙がっていても何の対処もない企業もいる一方で、環境団体の発言に対して、素直に問題点を認め、迅速に反応・行動する姿勢は企業として素晴らしいといえるのではないでしょうか。
また、活動の激しさから批判も多いようですが、環境問題を必死に伝えようとするグリーンピースのような団体も重要な存在といえるのではないでしょうか。こうした団体の行動によって大企業が動き、世の中が変わっていくこともあるのですから、単に行動だけ見て批判するのではなく、訴えようとしている内容をきちんと把握すれば、見方が変わることもあるかもしれません。
ブラジルの森林伐採に関しては、経済発展を望む同国政府の黙認・後押しなどもあり、簡単に解決できる問題ではないでしょうし、森林破壊は気候変動に脅威を与えるものではあるものの、これまで散々環境を破壊してきた先進国が、新興国に対してどこまで規制できるのか、という問題もあります。
でも、こうした事象が環境問題に大きな影響を与えていることは事実でしょうし、これらの問題が解決されるためには、ひとりひとりが世の中で何が起こっているかを学び、行動に移し、それによって力のある団体や企業を動かす必要があるといえるのではないでしょうか。
ニュースリソース:
・NIKE, Inc. "Commits to Helping Halt Amazon Deforestation"
・Timberland, Earthkeepers, "Issues in Earthkeeping, Part II"
・Adidas, "statement on the sourcing of leather from Brazil"
・Walmart, "Walmart Brazil Mobilizes Suppliers and Announces Sustainability Pact"
・Greenpeace, "Slaughtering the Amazon"
2009/08/17