排出権取引 Vol.2

Emission
(Photo by robpatrick @flickr)

Vol.1 の続き

国・地域ごとに独自に運用されている排出権取引システムもあります。

<EU>
中でも最も規模が大きいのは、2005年に開始した、欧州の排出権取引システムEU-ETS (European Union Emission Trading Scheme:欧州排出量取引制度)。

まず、欧州内の国ごとに割当が決められます(国家割り当て計画:NAP、National Allocation Plan)。
それを基に、各国内で工場や施設ごとの排出枠(EUA:European Union Allowance)が決められ、排出権が無償分配されます。
対象となるのは、排出量の多い電力、鉄鋼、セメントなどの業界。
2012年からは、航空業界も加わりました。
各工場や施設は、排出量削減努力を行い、排出枠を超えた場合は、罰金が課されるか、翌年の排出枠が削減されます。
それを避けるために、超過分の排出権を購入することも可能です。
逆に排出枠を下回った場合は、差額を売却することができます。

2005-07年を第1フェース、08-12年を第2フェーズ、13-20年を第3フェーズとしています。
第1フェーズでは排出枠を高く設定しすぎてうまく行かなかったため、改良が重ねられ、第3フェーズからは、NAPを廃止してEU全体での排出枠上限を定め、各工場や施設への割当は入札による有償分配に段階的に移行する予定です。
(EU-ETS)

<アメリカ>
京都議定書を批准していないアメリカでも、州や企業主導の排出権取引が行われています。

アメリカ北東部9州(ニューヨーク、コネチカット、マサチューセッツ、デラウェア、メリーランド、メイン、ニューハンプシャー、ロードアイランド、バーモント)で行われているのが、RGGI(The Regional Greenhouse Gas Initiative:地域温室効果ガスイニシアチブ)という取引システム(RGGI)。

2009年に運用開始し、12年までを第1期間、12-14年を第2期間とし、排出量を現状維持して安定化を図ります。
2015-18年の第3期間では、年2.5%ずつ排出枠を減少、期間全体で10%減を目指しています。
第1期間の全州の排出枠は1億8,807万トン、第2期間はニュージャージー州が脱退したため、その分を差し引いて1億6,518トンと設定されています。

対象となっているのは、州内の化石燃料を燃焼する25メガワット以上の大規模発電所。
取引される温室効果ガスは、二酸化炭素のみです。

参加州全体の排出枠を基に、各州の配分量が定められます。
対象の発電所には、年4回の入札方式により排出枠が有償分配されます。
各発電所は、2014年までは現状維持、それ以降は年2.5%ずつ排出量を削減するよう規制されているので、それに見合う分の排出権を購入しなければなりません。
公開入札なので、対象発電所以外に、金融機関や企業、団体、個人など、要件を満たせば誰もが排出権を購入することができます。
排出枠を下回った発電所は排出権を売却でき、上回った発電所はRGGI内で排出権を購入するか、排出量を削減している他の企業やプロジェクトから排出権を購入してカーボンオフセットします。
期末の排出量確定時に排出枠を超えている場合は、罰則を受けます。

2009-11年までにRGGIにより州が得た利益は、9億5,200万ドル。
そのうち、52%が省エネ技術改良に、11%が再生エネルギー配備に、14%が市民の光熱費削減に、1%がその他温室効果ガス削減策に使用され、合計約80%が環境負荷削減や市民のために使われています(INVESTMENT OF PROCEEDS FROM RGGI CO2 ALLOWANCES)。

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その他の国や地域でも、さまざまな排出権取引が行われています。
民間企業・団体による取引もあり、VER(Verified Emission Reduction:認証排出削減量)呼ばれ、主に企業や団体、個人によりカーボンオフセットに利用されています。

排出権取引は比較的新しい概念なので、未だ世界全体で試行錯誤している段階です。
ポスト京都議定書の行方が危ぶまれていたり、EU-ETSやRGGIの効果が疑問視されたりと、先行き不透明な状況でもあります。

しかし、何もしなければこのまま気候変動が進み取り返しのつかないことなることが予測されていますし、人は何らかのメリットがなければ自主的に環境問題に手をつけようとはしないものです。

人間の解釈で作り出した目に見えない権利を取引しているに過ぎませんが、金銭的なインセンティブにより少しでも環境負荷が削減される可能性があるのであれば、排出権取引は必要なシステムといえるでしょう。

国連気候変動枠組条約、京都議定書
ウエブサイト:http://unfccc.int/kyoto_protocol/items/2830.php

EU-ETS
ウエブサイト:http://ec.europa.eu/clima/policies/ets/index_en.htm

Regional Greenhouse Gas Initiative
ウエブサイト:http://rggi.org/

環境省、京都議定書
ウエブサイト:http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop.html

排出量取引インサイト
ウエブサイト:http://www.ets-japan.jp/

2012/02/20 訂正
2008/07/02

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