オーガニックコットン偽装事件、その後

organic cotton
(Photo by rodliz from flickr)

H&MやC&Aなどのファストファッション企業が巻き込まれ、大騒ぎに発展したインドのオーガニックコットン偽装事件(詳しくはこちら)。
その後、いったいどうなったのでしょうか。

H&Mに関しては、その後の調査の結果、「独ファイナンシャルタイムズ紙が言及する試験(オーガニックコットンの遺伝子組み換え混入調査)にH&Mの製品は含まれていなかった」ことが判明したとのこと(H&Mウエブサイト)。

一方、C&Aは現在も調査中で、今後インドでの徹底調査を行う予定だそう(C&Aウエブサイト)。

オーガニックコットン認証機関や団体も、相次いで声明を発表しています。

声明の内容は後述しますが、まず、オーガニックコットン認証の仕組みは少し複雑なので簡単に説明しておきます。
世界的に有名なオーガニックコットン認証機関は、オーガニック・エクスチェンジとGOTSの2つがあります(詳しくはこちら)。
それら団体は認証基準を作成・改正したり、認証を管理する組織であり、実際に認証業務(農家や工場が基準に従って正しく生産しているかの調査・認証)を行うのは、各々の認証機関が承認した世界各地に存在するエージェントです。
今回の事件で責任を問われているコントロールユニオンやエコサートは、オーガニック・エクスチェンジとGOTSの認証業務を行うエージェント企業です。

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オーガニック・エクスチェンジ(糸・生地・繊維製品にオーガニックコットン繊維が使用されていることを証明する認証機関)は、今回の事件に関して、「"主要小売企業がインド産の遺伝子組み換えコットンをオーガニックコットンと知りながら販売した"という独フィナンシャル・タイムズ紙の記事にある主張は事実無根である」という声明を発表しました(オーガニック・エクスチェンジのサイト)。

事実無根とする根拠は、同紙の取材を受けた多くの小売企業やNGOが、記事内の引用は誤りだと主張しているから、とのこと。
オーガニック・エクスチェンジも同紙の取材を受けたそうですが、答えた内容は記事には書かれておらず、「オーガニックコットンの30%程度は遺伝子組み換え物質が混入している可能性があると、"オーガニック・エクスチェンジの内部報告書"に記載されている」旨の記述があるが、そのような報告書は存在しない、としています。

また、同声明では、オーガニックコットン認証基準において、遺伝子組み換え物質の使用は禁止されていることを強調しています。
但し、オーガニックコットン農家の近隣で遺伝子組み換え種子の農作物が栽培されている場合、昆虫などにより他花受粉されてしまう可能性があること、あるいは、遺伝子組み換えコットンを扱う工場でオーガニックコットンを扱う場合、オーガニックに遺伝子組み換えコットンが混入する可能性があることを示唆しています。
もちろん、こうした可能性を利用した意図的な不正を避けるため、種子や土壌内の農薬残留量・遺伝子組み換え物質含有量が許容範囲内であるか、サンプル調査しているとのこと。

そして、オーガニック認証エージェントであるオランダのコントロールユニオンとフランスのエコサートが、インドの政府機関である農業・加工食品輸出開発局(APEDA)から、基準に準拠していないことを理由に制裁措置を課されたことは事実だそうですが、ニ社が直ちに業務を改善したため、APEDAは既に制裁措置を解除しているのだそうです。

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APEDAから罰金と業務差し止め制裁を受けたとされるコントロールユニオンも、声明を発表し、事の成り行きを説明しています(コントロールユニオンのウエブサイト)。

コントロールユニオンは、フィナンシャルタイムズ紙の記事の内容をすべて否定しているわけではありませんが、「ドイツでオーガニックコットンとして販売されているものの30%にインド産の遺伝子組み換え種子が混入している」という部分に関して、情報の出所と、試験の結果をインド産に結びつけた根拠が不明であるとしています。
昨年同社など欧州の認証エージェントがインドから制裁を受けたことと、同紙のオーガニック/遺伝子組み換えコットン調査の結果を安易に結びつけてしまったのではないかと指摘しています。

同声明では、制裁を受けた理由(恐らく今回の騒動の直接的な原因と思われる出来事)とそれが起こった背景が説明されています。

まず、インドのオーガニックコットン市場が急激に成長したために、認証エージェントが増え、インドでの認証業務が複雑になっていることが原因のひとつと匂わせています。
これまでは、綿繰り、紡績、織り、編み、と綿花がコットン生地になるまでの全工程の認証をコントロールユニオンが請け負うことが多く、統制しやすかったようですが、認証エージェントが増えたために、工程毎に異なるエージェントが認証するケースが増え、他社が認証した前工程の調査も行わなければならず、業務が煩雑になってきていたようです。

そして、2007年末、他社がオーガニック認証を行った綿花を使用して綿繰り・紡績している工場を、コントロールユニオンがオーガニック認証する(オーガニックコットンを使用していることや工場の生産過程が認証基準に合致していることを証明する)というケースがあり、それら工場が、他社認証済のコットン種子をサンプル抽出・分析したそうで、そこで遺伝子組み換え種子が混入していたのを見逃した、ということのよう。

詳しい状況説明がないので、その工場で具体的に何が起こったのかは分かりませんが、本来、サンプルの抽出・分析は、工場ではなく独立した調査機関が行うべきですが、コントロールユニオンは工場にその処理をさせてしまったために、そこで偽装を食い止めることができず、今回のような騒動になってしまった、ということなのかもしれません。

現在では、コントロールユニオンはこれを改善し、独立調査機関がサンプル抽出・分析し、遺伝子組み換え種子が混在していないことが証明されたコットンでなければ認証できないよう仕組みを変えています。
また、農場へも年3度抜き打ち訪問し、サンプル調査するようにしているとのこと。
さらに、どの農家の種子を使用しているかを追跡できるシステムを作っており、顧客(小売・メーカーなど)はウエブサイト上でそのシステムを利用できるようになるとのこと。
コントロールユニオンが全工程の認証を行っていない場合は、どの段階でどのエージェントが認証したかがわかるようになるのだそう。

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同じく制裁を受けたとされるフランスの認証エージェント、エコサートも、フィナンシャルタイムズ紙の記事は事実無根だと主張しています(エコサートのウエブサイト)。

09年3月にAPEDAがエコサートに金銭的制裁を課したのは事実だそうですが、業務停止措置は受けていないとのこと。制裁の理由はインドのオーガニック基準に対する"管理上の逸脱"だそうで、その後3ヶ月の是正措置により、既にエコサートの信頼性は認められているということです。

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今回の事件は、認証エージェントの怠慢が原因なのか、急成長するインドのオーガニックコットン市場の混乱のせいなのか、事の真相はわかりませんし、当の偽装コットンが今どこにあるのかもまだ判明していませんが、この事件によって、メーカー・小売・消費者の認証団体に対する目が厳しくなったことは確かでしょうし、認証団体も今後不正のないよう厳しく認証業務を行うようになるでしょう。

そして、事実とは違う記述もあったのかもしれませんが、このような事件を追い、報道した独フィナンシャルタイムズ紙の記者も称えるべきでしょう。

このような事件が起こっても、オーガニック栽培が地球環境のために大切であるという事実は変わりませんし、オーガニックコットン認証の必要性が薄れるわけでもありません(認証がなければ、それこそ不正が横行してしまうでしょう)。

事件が起こったことは残念ですが、インドのオーガニック市場が混乱するほどにオーガニックコットン需要が高まっているというのは良い兆候でしょうから、今後もコットンに限らず、農薬を使用しないオーガニック農業を支持し、不正のないよう監視の目を光らせていくことが、消費者としてこの事件から学ぶべきことであり、今後果たすべき役割なのかもしれません。

2010/02/05

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