米クリーンエネルギー法案、下院可決
(Photo by otzberg on Flickr)
6月26日、オバマ政権の環境対策の核でもあるクリーンエネルギー法案(American Clean Energy and Security Act)が、米下院で可決されました。
上院で可決されなければ法案は成立しませんから、まだまだ第一段階突破、といったところですが、肯定派・否定派入り乱れ、219対212の僅差での下院可決となりました。
オバマ大統領はこれを「素晴らしい第一歩」とし、「議会に法案可決おめでとうと言いたい。そして、上院に対し、有権者とその子供たち、神が創造した世界と未来の世代にため、この機会を活かし、協力して義務を果たすよう要請したい。」と演説。ところで、クリーンエネルギー法(別名、キャップ&トレード法、気候変動法など)とは、一体どんなものなのでしょうか。
1,200ページ+300ページ修正案という長い長い内容の法案だそうなので、すべてを説明することはできませんが、以下、米国下院エネルギーおよび商業対策委員会の要約とLAタイムズ紙の記事を元にまとめてみます。
この法案は、1.クリーンエネルギー(再生可能エネルギーや低炭素燃料の使用)、2.エネルギー効率化(建築、家電、輸送、その他産業のエネルギー効率化)、3.地球温暖化(温室効果ガス排出量規制)、4.移行(クリーンエネルギー経済への移行)の4項目で構成されています。
法案の大きな目的は、キャップ&トレード形式の温室効果ガス排出権取引システムを確立することと、温室効果ガス削減目標を設定すること(上記項目3)。
削減目標値は、2005年レベルより、2012年までに3%、2020年までに17%、2030年までに42%、2050年には83%削減、としています。
この法案におけるキャップ&トレード形式の排出権取引システムとは、企業ごとに排出枠を割り当てて、その差分を排出権(排出する権利)として売買できる仕組みのことです。
割り当て基準値より実際の排出量が少なければ、その差分を排出権として他企業に販売でき、逆に多くなれば、その分を他企業から排出権を購入するか、植林したり、温室効果ガスを回収するなど、オフセット(相殺)しなければなりません。
また、各州に対し、使用電力中の再生可能エネルギー比率を2020年までに20%まで引き上げることや、公共交通手段のエネルギー効率化目標設定することなども盛り込まれています。
さらに、プラグイン・ハイブリッドカーや原子力発電など、業界に対するインセンティブも明記されています(恐らく反対派業界や議員への配慮だろう、とのこと)。
この法案により、私たち一般市民にどういう影響を及ぼすかというのは、実際のところ、やってみないとわからない、ということだと思いますが、それぞれの立場により、さまざまな意見があります。
たとえば、電気代が高くなり、市民がそれを負担しなくてはならない、という法案反対派。
一方、エネルギー関連の職を創ることになるので、失業率削減に効果がある、海外から輸入せざるを得ない化石燃料に依存しなくて済むようになれば米経済が安定する、とするオバマ大統領を含む法案賛成派。
また、こんな法案じゃ弱すぎて、大きな環境効果をあげられないという厳しい意見の環境保護論者もいます。
反対派のほとんどは、この法案により既得権益を失うことを恐れる業界と、その業界を支持基盤とする政治家(主に共和党)のようです。
これまでに、こうした業界(を支持基盤に持つ政治家)の強い意見により、かなりの見直しが入り、(彼らが納得するだけの)修正がなされたとのことですが、それでもまだ反対しているのです・・
この法案に反対するということは、温室効果ガスを好きなだけ出したっていいじゃないか、と言っているようなもの(恐らく、個々に損益のある部分に対して反対しているのだと思いますが、法案が通らなければそういうことになります)。
法案が可決されたことによる悔しさで涙を流す下院議員すらいたのですが・・・世の中全体を長期的に見れば、温暖化により竜巻や干ばつなどの被害により、結局は世界中の全員に被害が及ぶ可能性があるわけですから、自分ひとり、あるいは特定業界の今この時点での多少の損得に固執することは、ぜひ避けて欲しいものです。
一般市民は、まだ下院通過段階ということもあり、この法案に関してあまり意見をしていないようですが、電気代が高くなる、という批判も、やってみなくてはわかりませんし、もしかしたらこの法案可決によって再生可能エネルギー事業の導入が増え、規模の効果で今より再生可能エネルギーの価格が安くなることだってあるかもしれません。
オバマ大統領も、「低・中所得層がその影響を受けないよう守る」と言っているので、不当な主張に踊らされず、まずは様子を見よう、という大きな気持ちでいて欲しいものです。
これまでの私たちの行動が、地球温暖化を招いてしまったわけですから、誰もがその責任を取らなければなりません。自分ひとりがいい思いをしようとしても、結局はそのつけは自分に返ってくることになるでしょう。
とにかく、上院での可決を期待したいものです。
ニュースリソース
・LATimes"Q & A: 'Cap and trade' central to climate-change bill"
・Committee on Energy and Commerce "American Clean Energy and Security Act of 2009 Discussion Draft Summary(PDF)"
・NYTimes"Climate Change Bill May Be Election Issue"
・NYTimes"Interview With President Obama on Climate Bill"
2009/06/29