トリクロサン
(Photo by Jack Black's Stunt Double, flickr)
「トリクロサン」という言葉、ご存知でしょうか。
トリクロサンは、抗菌性を高めるために使われる物質。
石鹸、洗剤、シャンプー、歯磨き粉、ローション、衣服、家具、まな板、玩具、プラスチック製品など、私たちが日常で使うさまざまな製品に使われています。
この物質が、最近アメリカで話題になっています。
なぜなら、トリクロサンはとても多くの製品に使われているにも関わらず、ホルモンかく乱物質の可能性があるという研究結果が出ているから。
しかも、抗菌効果があまり期待できないとも言われています。
アメリカ食品医薬品局(FDA)の調査によると、トリクロサンを歯磨き粉に使用した場合は歯肉炎防止に効果が見られたものの、他の製品に使用しても特別な効果は見られなかったそう。
トリクロサンを含む抗菌石鹸やボディソープで洗った場合と一般的な石鹸と水で洗った場合と、効果は変わらなかったという結果も発表しています(FDAウエブサイト)。
何も効果がないのなら、ホルモンかく乱の危険を冒してまで使用する必要はありません。
そのうえ、トリクロサンは抗生物質に耐性を持つスーパー細菌の生成に関与している可能性があります(FDAウエブサイト)。
つまり、人や動物が病原菌に感染したときに、抗生物質を摂取しても効き目がなくなってしまうということ。
その原因のひとつがトリクロサンである可能性が高い、ということです。
さらに、トリクロサンによる環境への影響も懸念されています。
家庭や工場の廃水に混じって川や海、湖に流れ出ると、環境ホルモンとして海生生物に悪影響を及ぼす可能性があります。
海や川に流れ出た有害物質は、小さな魚から大きな魚へと徐々に凝縮されます。
最終的にそれを摂取する人間や動物は、より深刻な影響を受ける可能性があるのです。
アメリカ環境保護庁(EPA)は、1969年にトリクロサンを農薬として登録しましたが、近年、同物質の人体・環境への危険性に関する再調査をはじめました(EPAウエブサイト)。
こうした危険性を懸念して、乳がん基金やフレンズ・オブ・アースなどの環境NPOが、署名を集めて企業や政府に使用停止を訴える活動を行っています(”安全な化粧品のためのキャンペーン”ウエブサイト)。
その結果、いくつかの企業がトリクロサンの使用停止を宣言しました。
日本でも、水道水に含まれる塩素や日光の紫外線にトリクロサンが晒されるとダイオキシンが発生するという問題が、以前から指摘されていました。
その結果、現在トリクロサンは化学物質審査規制法の”第三種監視化学物質(環境に対する毒性が懸念される物質)”に指定されています。
ただし、あくまで環境への毒性に関する注意喚起であって、人体への毒性に関しては規制されていないので、今でも日本で販売されている製品の多くにトリクロサンが使用されています。
自然界は、とても複雑な仕組みで構成されています。
人間が、そのすべてを把握することはできません。
人体や環境に良いと思って作られた製品でも、時間の経過とともに悪影響が判明することが少なくないのです。
政府の規制や企業の自主規制を待っていては、自身や家族の健康は守れません。
自ら進んで情報を入手し、危険な物質やよく分からない名前の物質が使用されている製品は避け、シンプルで安全な製品を使うよう心がけましょう。
食品医薬品局(FDA)
ウエブサイト:http://www.fda.gov/
環境保護庁(EPA)
ウエブサイト:http://www.epa.gov/
The Campaign for Safe Cosmetics
ウエブサイト:http://safecosmetics.org/
環境省 化学物質審査規制法 第三種監視化学物質
ウエブサイト:http://www.env.go.jp/chemi/kagaku/kisei/3kanshi.html
2011/07/22