排出権取引 Vol.1

Emission
(Photo by robpatrick @flickr)

排出権取引とは、温暖化の原因となる温室効果ガス排出の権利を売買すること。

最も一般的な方法は、排出枠の上限(キャップ)を設けて余剰分を取引(トレード)する、キャップ&トレードです。
国、地域、企業、施設など温室効果ガスを排出している対象に対し、排出してよい温室効果ガスの上限を定め、排出権として分配します。
上限を下回った分は売却でき、上限を超えた場合は下回った国や企業の排出権を購入して埋め合わせる、という仕組みです。

排出権の分配方法は、有償と無償の場合があります。
無償の場合は、過去の排出量に応じて分配するか(グランドファザリング)、保持する技術や生産する製品によって適切な排出量を見積もり分配します(ベンチマーク)。
ただし、ベンチマークの場合は見積もり作業が困難で、グランドファザリングの場合は過去の努力が報われないといった問題があるため、有償で排出権を購入させる形が一般的になってきています。
有償分配は、対象となる企業や施設の初期負担が大きくなりますが、無償分配に比べて公正で透明性が高いという利点があります。

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排出権取引は自治体や民間企業などがさまざまな形で行っていますが、世界全体で国家間の排出権取引の枠組みを決めたのが、京都議定書です。

京都議定書とは、1997年に京都で開催された「第3回気候変動枠組条約締約国会議」という国際会議において議決された議定書のこと。
先進国の温室効果ガス削減目標値を国ごとに設定し、目標を達成するための仕組みを規定しました。

京都議定書では、先進国全体の温室効果ガス削減目標は、2008-12年の5年平均で、1990年時と比べて5%減と定められています。
対象となる温室効果ガスは、二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄。
日本は90年比-6%、EUは-8%、アメリカは-7%と設定されています。
この比率に基づき、90年時の排出量から算出して各国の割当量(最大排出可能量)が決められています。
日本は11億8,570万メートルトン、EUは39億6,500万メートルトン、アメリカは議定書に批准していないため数値は出ていません。
1メートルトンを1単位として、各国・地域に排出権が無償で割り当てられます。

途上国の削減目標は、定められていません。
これは、産業革命以降、大量の温室効果ガスを排出し経済発展の恩恵を得てきた先進国が温暖化の責任を取るべき、という考えに基づいているためです(国連気候変動枠組条約事務局)。

割当量を超えてしまった場合、超過量の1.3倍を2013年以降の削減目標から差し引く、排出量取引を禁止する、などの罰則が定められています。

ただし、ある国が目標値を達成できなかったとしても、他の国がそれを上回るほど削減できれば、地球全体としては温暖化対策の効果があります。
そこで、自国内でどんなに努力をしても割当量を下回らなかった場合、他国が削減した排出量分の権利をお金で買うことで、罰則を免れられるという救済策が提示されました。
これが、排出権取引です。

たとえば、日本が省エネ技術の改良や、工場・運輸などの排出量削減、植林で温室効果ガス吸収量を増やすなど自国内で削減努力をした結果、4%しか削減できなかった場合。
残りの2%分は、削減目標が定められていない途上国や、目標値以上に削減できた他の先進国から排出権を購入して補填すれば、6%の削減目標を達成したものとみなされ、罰則を受けなくて済みます。

京都議定書で決められた排出権取引の方法は、3つあります。

  1. クリーン開発メカニズム:CDM
    (Clean Development Mechanism)
  2. 共同実施:JI
    (Joint Iplementation)
  3. 国際排出量取引:IET
    (International Emission Trading)

CDMとは、削減目標を定められている先進国が、目標を定められていない途上国内で実施されるプロジェクトに技術提供や資金協力を行い、何もしなかった場合と比べて排出量を削減できた場合、そのうちの一定量を先進国自身の削減量とみなす、というもの。
CDMで取引される排出権を、CER(Certified Emission Reduction)と呼びます。
また、何もしない場合(ベースライン)と比べて削減できた排出量を取引する(クレジット)方法を、キャップ&トレードに対し、ベースライン&クレジットと呼びます。

JIとは、削減目標が定められている先進国間でCDMのようなプロジェクトを伴う取引を行うこと。
JIで取引される排出権を、ERU(Emission Reduction Uni)と呼びます。

IETとは、削減目標が定められている先進国間で、プロジェクトを伴わず排出権の売買を行うこと。
各国の割当量をAAU(Assigned Amount Unit)と呼び、目標達成できなかった国が目標値以上に削減できた国からAAUを購入します。
AAUの代わりに、植林などによる温室効果ガス吸収量増加分(RMU:Removal unit)を取引する場合もあります。
RMUは、取引できる上限が国ごとに決められています。

京都議定書の仕組み(京都メカニズム)で取引される、これら4つの排出権(CDM、JI、AAU、RMU)を京都クレジットと呼びます。

CDMとJIの具体的な取引方法は、京都議定書では定められていませんでしたが、2001年のマラケシュ合意で正式に決定しました。

まず、プロジェクトに参加する両国当事者(民間企業でも公的機関でも可)が協議し、プロジェクトの内容・場所・削減目標値・支援方法などを定めたプロジェクト設計書を作成します。
(たとえば、○○国の××村の△△廃棄物処理工場に最新技術を搭載した機器を導入することにより、導入しなかった場合に比べて80%温室効果ガスを削減できる、など)
これを両国政府に提出し、政府の承認が下りると、 国連指定の第三者機関の審査を経て、正式にCDMプロジェクトとして登録されます。
プロジェクト稼動後、当事者はプロジェクトの結果を記載した報告書を作成・提出します。
国連指定の審査機関がこれに基づいて排出量を確定し、CERが発行されます。

JIはCDMより簡素化されていますが、同じようなプロセスを経てERUが発行されます。

京都クレジットの売買は、電子取引システムで管理されます。
各国が国別の登録簿システムを保有し、国連気候変動枠組条約事務局が管理する国際取引ログというシステムと接続します。
温室効果ガス1メートルトンごとに識別番号が付けられ、取引されると、口座間で排出権が移動します。
国際取引ログにより、それぞれがどのように取引されたかが細かく記録され、不正のないようチェックされています。
実際に取引を行うのは、国ではなく商社や金融機関など民間事業者であることが多いので、各国登録簿の下に事業者ごとの口座が設けられています。

また、削減目標を定められている国が排出権を売りすぎて、最終的に目標値を満たせないことを防ぐため、目標値の90%か直近の排出量の5倍のうち低い量を保持しなければならないという制約があります。

これが、京都メカニズムによる排出権取引です。
ただし、世界最大の排出国である中国とアメリカ、日本の排出量を上回るインドや排出量の多い新興国が京都議定書に参加していないため、効果が疑問視されています。
削減対象期間は2012年で終了しますが、その後も京都議定書を継続するのか、新たな枠組みが作られるのか、世界的な合意は未だ得られていません。

Vol.2 へ続く

国連気候変動枠組条約、京都議定書
ウエブサイト:http://unfccc.int/kyoto_protocol/items/2830.php

EU-ETS
ウエブサイト:http://ec.europa.eu/clima/policies/ets/index_en.htm

Regional Greenhouse Gas Initiative
ウエブサイト:http://rggi.org/

環境省、京都議定書
ウエブサイト:http://www.env.go.jp/earth/ondanka/cop.html

排出量取引インサイト
ウエブサイト:http://www.ets-japan.jp/

2012/02/20 訂正
2008/07/01

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